Netflixがあの「新聞記者」をドラマ化した理由 伝えたいメッセージは「国家の陰謀ではない」

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「世の中に興味なく、周りの就活生の意識の高さを小バカにしていた人物がある日突然、当事者になる。身近に起きたことに対して知りたいと思うわけですが、知ったところで自分の声が届かないことを知り、最終的に自分自身が変わる必要があることに気づく。横浜さんに演じてもらった木下役のこの縦軸のストーリーは脚本作りに取り掛かった段階から考えていたものでした。“社会と共に生きている”ということも伝えたいメッセージのひとつでした」

社会と関わり始めた若者が事件を俯瞰でみる第三者の目線が入ったことで、偏りのないバランスの取れた作品にもなっています。

「組織と個人」のテーマ性を強化した理由

この木下役の存在は、日本の事情も事件についても知見がない他国の視聴者にとって理解のしやすさにもつながっています。今回の作品はスターサンズとの共同出資、企画作品であり、Netflixが主体となった完全オリジナルとして作られてはいませんが、Netflixを通じて世界190カ国で配信されることを前提に脚本づくりが行われています。それが「組織と個人」、そして「社会と個人」というテーマ性を強化した理由にあるのです。

かえって、角が取れてしまったと思う方もいるかもしれません。ただし、ラストの落としどころには納得できるものがあるはずです。藤井監督の言葉から、それは狙ったことだとわかりました。

映画版に引き続きメガホンをとった藤井道人監督(左)。ドラマ版はエンターテインメント性を強めた(写真:Netflix)

「誰も日本を沈没させようと思って生きていません。それぞれの正義でよくしたいと思うからこそ、すれ違いや軋轢が生まれているのだと思います。だから、今回のドラマ版では偏ることを避け、自分たちが生きている国に目を広げることができる一助になればと思い、作りました。世の中が暗いときに前向きになることができるラストを用意し、映画と違う清々しさを入れています。Netflix版としてこの作品を作った意味はあると思っています」

見る者それぞれに思考を巡らせる作品であることは確か。政治スキャンダルを扱った単なるドラマに終わらない、本質を突くテーマ性とエンターテインメント性を兼ね備えた意欲作です。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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