「出戻りした後に、転職時にも強く引き止められなかったことを思い出したんです。その時も副社長は『そうか、ワクワクしちゃったのか! これは止められないパターンだな。じゃあ、退社した後もまた何かあればいつでも連絡してよ』と言っていて。卒業生として招かれたのも、今思えば伏線だったのかなって思います。なんだか、副社長の手のひらのうえで踊らされていたようですよね(笑)」
退職した理由を乗り越えた方法
挑戦する社員に寛容な社風もあり、結果的に、出戻ることに成功した中島さん。しかし、そうは言っても、退職した時の要因が自然に消えるわけではない。
だが、彼の場合、自身の心境の変化と、会社の配慮による働き方の変化で、それらをも乗り越えることになる。
まずは「事業責任者としてやり切った感」。これは、出戻り前後で業務内容が変わることによってクリアになった。
「前は既存サービスの運営と成長が主なミッションでしたが、今は新しい事業を作る部署にいます。80人規模の事業責任者から、5人だけのチームに変わりました」
次に、「ベンチャーなのに、変化が乏しくなっている」という不満。部署が変わるだけでは克服できない事象といえるが、他の会社を経験し、中島さんのなかで価値観の変化が起きたことで、結果的に受け止め方が変わることになった。その問題を解決しようとする側になったのだ。
「数年前の自分は、自社のことを『変化の遅い会社だ』『小さくまとまっている』と感じていたけど、ベンチャー企業が大きくなるうえで、速度を多少落としてでもガバナンスを利かせることは、むしろ必要なことだと思うようになっていきました。退職時に自分が感じていたジレンマって、そもそも、安定期に入った会社の多くが抱える課題なんですよね。
そのうえで、当時の自分と同じようなモヤモヤを抱える社員たちに伝えられることがないか、組織運営をする立場として模索するようになりました。
ベンチャー界隈って、IPOだったり、事業立ち上げ期の話が持ち上げられやすいんですけど、その後の話ってあまり出てこないんです。みんな創業期に興味があるということですが、でも、当たり前だけど会社はその後も続いていくわけで。成熟化するベンチャー企業は社員とどう向き合うべきなのか。なにか答えが出せたらいいなと思っています」
若い頃は刺激的な環境を求めていた人も、社会人経験を重ねたり、年齢や立場によって、価値観も変わるものだ。同じように、会社も年齢を重ねて規模が拡大すると、良くも悪くも変わっていく。
その結果、成長速度を求めてベンチャー企業に入社した人に「思ったよりも挑戦できない環境だった」と落胆されることもある。反対に、”ベンチャーらしさ”をなくさないためか、長時間労働への美学を持っている上司がいたりする(苦労した経験の名残があるのだろう)。
非常に難しい問題のため、現状、中島さんにも明確な解決策は浮かんでいないようだが、他人事とは思えない人も多いのではないだろうか。
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