「暴君」は大誤解!源氏の宿敵「平清盛」意外な素顔 地方からのし上がり、栄華を極められた理由

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続いて、第3の理由。それは皇室、摂関家などとの婚姻政策だ。

例えば、清盛の娘・盛子は、長寛2年(1164)に摂政・藤原基実の妻となっているし、承安元年(1171)には、清盛の娘・徳子が高倉天皇の女御(翌年、中宮)となっている。徳子が高倉天皇の皇子を産めば、またはその皇子が即位して天皇となれば、清盛は天皇の外戚として、権力を強化することができよう。

治承2年(1178)、徳子は男子(後の安徳天皇)を出産するが、妊娠までに入内から7年が経過していた。しかも、大変な難産であったらしく、清盛は居ても立ってもいられず「どうしよう、どうしよう」と途方に暮れるばかりであったという。

寺院での祈祷も行われたが効果はなく、後白河法皇が怨霊退散の祈りを凝らすと、徳子は無事に男子を出産したというのだ。清盛は、感激し、声を上げて泣いた(『平家物語』)。

清盛が泣いたのは、天皇の外祖父の地位につくことができるという権力者としての喜びというよりは、娘と孫の無事を喜び、娘・徳子の苦難を思ってのことだろう。人情家・清盛の面目躍如である。

合理的で現実的な思考を持っていた清盛

清盛の出世の秘密の第4は、次に示す逸話に示されているように思う。

ある年の日照りが続いたときに、澄憲という僧侶が祈祷によって大雨を降らせた。人々は歓喜し、澄憲を称賛した。ところが、清盛は「五月雨のごろになれば、雨が降るのは当然である。病人でも時が来れば、自然と治る。これは、たまたまそのころに病人を診た医者が名医と呼ばれるのに似ている。雨が降ったのは澄憲の手柄というのは馬鹿げたことだ」と笑ったというのだ(『源平盛衰記』)。

当時は上も下もその大部分が、迷信や因習にとらわれていたと言えるが、清盛はそうではなかった。合理的で現実的な思考を有していたと言えよう。兵庫に港を築く際にも、人柱を犠牲として使うことをやめたこと、宋(当時の中国)人と後白河法皇を面会させたことからも、清盛の先進性を見ることができる。

当時は、法皇が外国人と面会するなど「天魔の所為」と貴族から非難されたことである。それを易々と清盛は実行に移していく。もちろん、このことに関しては、清盛だけでなく、後白河法皇もかなり型破りな人物だったといえる。

清盛は兵庫に港を築き、宋の船を招き、貿易で利益をあげようとしたのだが、そのためには、因習と呼ばれるべきものをことごとく打ち破っていったのだ。宋の使者が法皇と清盛に書状と贈り物を持参したときも、返書不要との声を無視して、清盛らは返書・返礼をしている。返書しなければ、交易はうまくいかない。清盛の心にそうした想いがあったはずだ。当時の常識を乗り越えることができる清盛がいたからこそ、日宋貿易は盛んになったのである。

以上、清盛の出世の秘密を4つに分けて見てきた。現代人も参考にできる人心掌握術や出世の技法というものが明確になったのではないかと思う。しかし、術や技ばかりに精を出しても、そこに「魂」(真心といってもよい)が込められていなければ、何は失敗するに違いない。特に若い頃の清盛も、真心の人であったと思うからだ。そしてそれが出世の重要な要素であったと私は考えている。

濱田 浩一郎 歴史学者、作家、評論家

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はまだ こういちろう / Koichiro Hamada

1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『あの名将たちの狂気の謎』(KADOKAWA)、『北条義時』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)など著書多数

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