では、何が昨年紅白の視聴率低下の原因となったのか。勘のいい方なら、もうお気づきだろう。そもそも紅白の時間帯に、テレビを視聴している人が減ったのだ。それも激減したらしい。
具体的には、大みそかにおける総個人視聴率(≒テレビ視聴者総数)が低下。とりわけ紅白後半のピークを迎える23時には、一昨年に比べて、なんと2割(!)近くも減少した計算になるという。これは、視聴率の下げ幅(40.3%→34.3%≒1.5割)を上回っている。
鈴木祐司氏はこう述べている――「大晦日に家にいた人の一定割合が、テレビからネット動画へ流れたと推測できる」「去年までは各局をザッピングしていた人々の一部が、今回は途中でネット動画に離れたまま戻らなくなっていたと筆者は推測する」。
つまりは、強力なライバル番組の不在が、紅白の視聴率アップに寄与するのではなく、むしろテレビ視聴者をネットに流出させ、結果、紅白の視聴率ダウンに寄与したという、何とも皮肉な結果になった可能性が高いのだ。
総じていえば、昨年紅白の視聴率低下には、番組内容うんぬん以上の、より構造的で大きな問題が潜んでいたと見る。
「公共放送」のNHKに求められる番組作り
ここで大所高所に立つ。「公共放送」としてのNHKの存在理由、最近流行のビジネス用語でいうところの「パーパス」は何なのか。
そういう議論はNHK内部でも、それこそ何万回と繰り返されているのだろうが、いち視聴者として思うことは、もちろん視聴率向上は重要だろうが、それだけに拘泥すると民放と同じになり、「公共放送」としての存在理由が薄まるということ。
私がお願いしたいのは、視聴率に縛られ(すぎ)ないことを逆手に取った、視聴満足度の高い番組作りだ。図式化すると、「視聴率×満足度」の総面積を高めることがパーパスとなろう(【図1】の青色ゾーン)。もちろん、NHKの看板番組である紅白は筆頭となってパーパスを実現するべきだ。
ここで、現在の外的環境を見れば、視聴率のベースとなるテレビ視聴者自体の減少が、紅白の視聴率をも低下させる圧力と化している(【図2】矢印A)。先述のように、この状態は構造的なもので、圧力からの回避は極めて難しい。
だとしたら、まずできることは、内的環境としての番組内容に目を向け、視聴満足度向上に資源・施策を集中することに尽きる(【図3】矢印B)。結果として、高い満足度が、視聴率低下のスピードを遅らせ、さらには新しい視聴者を誘引、視聴率を維持・拡大するという構造へ(【図4】矢印C)。
ここで重要なのは、今守るべきゾーン(図内青色)、今後狙うべきゾーン(図内黄色)を支える層は誰なのか。つまりターゲットは誰なのかを鮮明化すべきということである。【図2】のような厳しい現状を勘案し、「国民全体」「世帯全体」などのふわっとした定義ではなく、もっと具体的に研ぎ澄まし、戦略の輪郭をはっきりとさせることが必要となろう。
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