藤野英人氏、「良質なデータには鼓動がある」 カリスマファンドマネージャーのデータ分析論
――人間を理解するために、何が重要だと思いますか。
人間を理解するために重要なものは仮説です。そして、仮説を下支えするものは、“主観”と“データ量”です。
よく「主観にはブレがある」と言われますが、私は「主観は客観よりブレない」と考えています。
昔、あるコンビニチェーンの役員から面白い事例を聞きました。そこのチェーンでは、全店舗に大学生の覆面調査を行っていました。調査項目としては、「床の清掃状況」、「本が丁寧に並べられているか」、「中華まんを取る際に手袋をしているか」、「欠品が無いか」等、わりあい客観的な項目が並べられていたのですが、最も重要だった項目は「笑顔が素敵か」だったそうです。
驚くべきことに、日販の上位10%は「笑顔が素敵」と評価されており、下位10%は「笑顔が素敵でない」と評価されていました。
大量のデータをから見えてくる良質な仮説
そんな“ブレない主観”を基に仮説を立てるわけですが、その際に重要となるものが“データ量”です。
私がまだ若手の頃、ソニーでマーケティングを担当していた友人に「藤野の顧客は約3600社しかないのに、なんで全部知らべないんだ?」と言われたことがあります。当時の私は、“調査は良い会社を選別してから行え”と多くの上司や先輩から言われており、調査する対象を絞ることは常識だと思っていました。そして、だからこそ、自分自身の主観は持っていても高い精度の仮説はまだ築けていませんでした。
先ほどのコンビニチェーンの調査も、主観的なチェックを全店舗に対して実施したことによって、“業績を上げるためには笑顔が重要である”という仮説を立てることが出来たのです。しかし、約3600社に足を使ってヒアリングすることは現実的に考えると大変な作業です。そこで大事になるのが、主観の定量化です。
企業ホームページにおける“役員写真のある・なし”や“更新頻度”、企業に郵送したアンケートはがきの“返信のある・なし”など、自分の主観を第三者も判断できる情報に変換することで、大量のデータを取得することが出来ます。
以上のように、主観を定量化し、大量のデータを捌くことで、人間を理解するための良質な仮説は立てられます。