"低温発酵熱"こそが、社会を変えていく

コウノトリのまちが地味に進めたこと(下)

中貝宗治(なかがい・むねはる)
兵庫県豊岡市長
1954年生まれ。京都大学法学部卒業後、兵庫県庁に入庁。1991年兵庫県議会議員に当選、以後3期務める。2001年豊岡市長に就任。2005年に市町合併による新「豊岡市」の市長に就任。現在3期目。「コウノトリも住める豊かな自然環境と文化環境は、人間にとってこそすばらしいものに違いない」という信念のもと、環境をよくする行動によって経済が活性化する“環境と経済の共鳴”の具体例を積み重ねるなど、独自の施策を展開している。

中貝:最初にヒナが誕生してから巣立つまでを記録した映像が、ものすごく感動的なんです。なんでたった1羽、コウノトリの鳥のヒナが産まれ、巣立ったからって、こんなにジーンとくるんだろうと。

それを見ている僕ら人間は、たぶんコウノトリの向こうに自分の家族を見ているんです。子どもがいる人は子どものこと。孫がいる人は孫のこと。あるいは自分の親とか。

坂之上:子どもの鳥は最初怖がって、なかなか飛ばないそうですね。高い巣から勇気をだして飛び降りる瞬間に、人間は何かを重ねるのかもしれないですね。

中貝:実は、日本で野生のコウノトリに絶滅のとどめを刺したのは農薬なんです。

コウノトリって完全肉食ですから、安全な生き物がいっぱいいる世界でないと、暮らせません。それで、いかにもう一度この地域の自然を取り戻すかを考えて、有機農業を広げていきました。

味方同士なのに、純粋さを競って戦ってしまう

坂之上:鳥のために農薬を使わないようにしよう、って、やはり最初は反発があったのではないですか。

中貝:ありました。鳥より、人間をかまってくれって。だけど合い言葉は、コウノトリ「が」住む町ではなくて、コウノトリ「も」住める町をつくる。「も」にするんだと。

坂之上:「も」、ですか。

中貝:「も」の中には人間も入っているし、経済も入ってるのだと言って、みんなの気持ちを治めようとしました。活動の輪を広げる時、はじめから意識的に大事にしたのは、人間の心理です。気持ちにストーンと落ちた時に、はじめて人は動きますから。

坂之上:川の工事の時と同じですね。

中貝:コウノトリも住めるような町にしようなんて、ほんとうに大ごとなんですよ。

農家はコウノトリが安心して餌を取れるように、有機農業をやらないといけない。河川管理者はコンクリートの川ではなくて、生き物がいっぱいいる自然の川をつくらなければいけない。ひょっとしたら壊した湿地を、もう一度つくらないといけないかもしれない。そんなことより金儲けのほうが大切だという人たちには、環境で儲ける方法を見つけようと言わないといけない。

坂之上:聞いているだけで、大変なのがわかります。

中貝:環境問題への取り組みがなぜしばしば失敗するのかというと、多くの場合、「純粋さ」を競い始めて、味方同士で争って、分裂してしまうんです。

坂之上:というと?

中貝:「俺はここまで徹底して有機農業をやっているのに、あいつは1回だけ農薬を使う、なんてあいつは不純なんだ」と。

坂之上:あぁ。

中貝:そうじゃなくて、ほんとうの敵は、農薬をいっぱい使っている人たちなんです。

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