これに対してキャリー取引は、アメリカの住宅価格バブルに直接的な影響を与えた可能性がある。そして本連載第4回で述べたように、住宅ローンが自動車購入に充てられるというメカニズムが作り出されたのだ。そうだとすれば、日本の金融緩和・為替介入が、アメリカのサブプライムバブルを招いたと言える(これは第10回で述べたことである)。日本は、今回の金融危機に無関係だったわけではない。アメリカのバブルと日本の外需依存経済成長は、裏腹の関係だったことになる。
グリーンスパンは、アメリカの経常赤字拡大は、ホームバイアスの減少と世界的なデフレ傾向にあると考えたのだが、そうではなかった。日本政府の介入政策と、それによって引き起こされた円キャリーが原因だったのだ。これはバブルだから、いつかは破綻する。赤字が継続できると考えたグリーンスパンは間違っていた。
円キャリーで調達された資金は、東ヨーロッパにも向かった可能性がある。ここでも投資先は不動産だ。それがいま問題を起こしている。日本から流出した資金が世界経済を攪乱した度合いは、非常に大きかったのかもしれない。
しかも、それら資金の動きは、国際収支統計では、「その他」や「誤差」としてしか把握されておらず、どのような取引がなされたかの詳細はわからない。ましてや、それがどのように投資されたかは、いくつかの断片的な証拠をつなぎ合わせて判断するしかなく、今に至るまで実態はわからない。世界経済に大きな影響を与える資金移動の実態がよく把握できないというのは、現在の統計システムの大きな欠陥だ。
日本経済は景気拡大へ
日本経済は02年1月を底に回復し、景気拡大に向かった。これは07年11月まで69カ月間続く戦後最長の景気となった。実質GDPは02年の505兆円から07年の561兆円まで、10・9%成長した(ちなみに、09年の実質GDPは、07年より6%ほど低い水準である)。名目GDPは、02年の491兆円から515兆円へと24兆円増加した。
この景気拡大は、いくつかの点でこれまでの景気拡大とは異なる特徴を持っていた。