賃金が低下した背景には、図に示すように非正規労働者が増加したことがある。他方でトヨタ自動車の営業利益は07、08年とも2兆円を超えて、製造業で世界のトップに立った。当期純利益も1・7兆円程度になった。1社で日本全体の法人企業の1割近い利益を稼ぎ出すというのは、尋常なことではない。02年からの外需依存景気は、「トヨタ景気」だったと言ってもよい。
業績向上を反映して、トヨタの株価はめざましく上昇した。02年には3000円を下回ることが多かったのだが、07年の初めには8000円を超えた。トヨタにかぎらず一般的に株価が上昇したため、株主には多大のキャピタルゲインがもたらされた。また、配当も増えた。
しかし、その半面で、大部分の家計が持つ定期預金の金利収入は減少した。国民経済計算で見ると、家計の受け取り配当は01年から07年にかけて2・3兆円から5・5兆円へとほぼ倍増した半面で、受け取り利子は同期間に7兆円から6・5兆円に減少したのである。
法人税収も増加した。外需依存経済成長は、大成功を収めたわけだ。ただし、それは、「置き去りにされた大部分の国民を無視すれば」ということである。
■関連データへのリンク
・総務省「労働力調査」長期時系列データ
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。
(週刊東洋経済2010年8月7日号 写真:今井康一)
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