アメリカの沈みゆく島で見た「気候変動」の大実害 島はどんどん海に埋もれ、住民は故郷を離れる

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イルカが水路を戻ってきた。浮動する荷船、堤防、水門などの河川インフラに出くわしたのだろう。今では年に1度か2度の頻度で来るようになった嵐から郡庁所在地ホーマを保護するために、こうしたものが設置されている。

イルカは屋根が吹き飛ばされた家々の前を泳いで通り過ぎた。カビの生えたマットレス、パイプが引き抜かれたトレーラーの前を通り過ぎる。ハリケーン・グスタフの間に破壊され、冬の間住民を暖房のないままおきざりにし、その後修復されることのなかったガスのパイプラインの前を通り過ぎる。消防署の前を通り過ぎる。何百もの枯れたサイプレスとオーク、ハリケーン・リタが破壊した漁場、テオの両親がかつて住んでいた家、ローラ・アンのかつての家、アルバートのかつての家、そして建て直しがやっかいで高くつくため、放棄されたその他あらゆる住宅。

それはあまりにやっかいで、あまりに高くつくため、ろくでもない選択肢しか残されていない中、ある人々にとってはジャン・チャールズ島を離れることがいちばんましな選択となったのである。

初の気候難民となるかもしれない

この島で生活し、逃げた人々は初の気候難民となるのではないか、と私は考えるようになった。2050年までにこのような人々は全世界で2億人に達し、内200万人がここルイジアナから出てくる見込みだ。そしてクリスはここにとどまり続けている。

「でもね」とクリスは私の考えを読んだかのようにこう言った。「立ち去る人々ととどまる人々の間に、実質的な違いなんてないんだ。ある程度時間が経ってから人々が去っていくのは、ここでの生活が困難だからさ」彼の目は濡れて輝き、肌はつやつやしている。

「ハリケーンが直撃すると、ベッドもソファも電気も冷凍庫もガスも水道水もなくなる。1カ月以上屋根がないままになることもある。戻るべきところがあれば、床の上に寝て、建て直しをする。または、ここを去る。でもここを立ち去った人々が、出て行きたがっていたわけではないんだ。だけど誰もが決断をくださなければならない。たとえここを離れたとしても、その人だってここに残りたいという思いは大きいはずだ」とクリスは言った。

私は一瞬ブルックリンのアパートについて考えた。その部屋から再び地下鉄S系統を眺める可能性は限りなく低い。そして私が去った後もその部屋に住み続ける男性のことを考えた。彼の存在は過去3年、私の生活の大部分を規定してきた。

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