アメリカの沈みゆく島で見た「気候変動」の大実害 島はどんどん海に埋もれ、住民は故郷を離れる

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「あなたに出くわすなんて、私は運がいいのね(……)午後の間、島で誰にも会うことがなかったから」と私は言った。

「僕は遠くに行くことはあまりないから」とクリスは答えた。アブが、紐の端につけたボールのように彼の頭のまわりを旋回していた。(……)「この場所のことがわかり始めたところなの。とてもきれいなところね」と私は言った。

「夜明けと日没には、もっと美しくなる」とクリスは加え、着ているコットン製の野球用ジャージの袖を引っ張った。「その2つを見ないうちは、この島について語る資格はないね。日の光が空を照らすと、雲はさまざまな色に染まる。この光景を見るためにどこか別の場所へバケーションに出かけるとしたら、いったいいくらかかるのか、見当もつかないよ」彼は黄色いビニール製の椅子を拾いあげ、それを転がし、座るようすすめてくれた。

クリスの甥ハワードは、家の裏の水路で釣りをしていた。(……)1951年に最初の石油掘削装置が近くに設置されると、それに伴い沼を行き来するための経路が掘られ「水路化(channelization)」が起こった。石油会社は、掘削作業が終わり、掘削装置が不要になったらそれぞれの水路を岩でせき止め、埋め戻すことになっていた。バイユーを囲み、支える、脆い沼を通る水の動きを抑えるためだ。

「でも石油会社がそうすることはなかった。連中が、約束通りにバイユーを維持することはなかったよ。結果今では、湾は裏口まで迫っている」その話は町でも聞いていた。侵食によって毎年水路は広がり、かつてジャン・チャールズ島を形成していた陸地に食い込んでいるのだ。

イルカが見られるように

ちょうどその時、イルカが人工の水路を泳ぎハワードが釣り糸を投げている場所を通り過ぎた。つかのま、イルカのひれが波打つ光景に私は胸を躍らせた。

「40年前は、この辺でイルカを見ることはなかった」とクリスは言った。「だけどこの辺一帯は陸地が侵食され続けている。石油会社が沼に作った切れ目が、そのプロセスを加速させているんだ。昔は淡水だったところが今は塩水となり、イルカが来るようになった」バイユーに人間が居住していた全期間において、これほどの「内陸」で大型海生哺乳類を見ることは考えられないことだった。しかしその「内陸」は、もはや内陸ではないのである。

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