「大差で負けたチームが謝る」日本野球の不可思議 スポーツマンシップにかかわる難しい問題

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中村聡宏氏は、高校野球のリーグ戦、Liga Agresivaに参加している指導者や選手に、スポーツ、野球をする意味について話をしている。

「リモートで、ずいぶん多くの選手、指導者に話をさせていただいています。かつての英英辞典には『sportsman=good fellow(よき仲間)』と書かれています。スポーツを通じていろんな友達、仲間ができていく。そして視野が広がっていく。そこが重要です。

日本のスポーツは何でもかんでも縦割りにして、目の前のことだけに集中しがちですが、本当はスポーツを通じていろんな知見を手に入れて、ほかのことに生かしていくことが大事なんです。スポーツでは、自分を倒そうとやってくる相手に立ち向かいますが、実はスポーツはその相手がいないと成立しない、という構造になっています。スポーツマンには対戦相手を尊重し、スポーツを尊重し、かつ楽しもうという『覚悟』が必要なんですね。

最近は、ダイバーシティとかインクルージョンという言葉がよく使われますが、スポーツは、立場が違う人たちがわかり合う手段でもあるんです。ランクが違う相手と対戦して大差がついても、相手のことを考えて寄り添っていく必要がある、その寄り添い方は、大差がついてもベストを尽くすことなのか、相手に“このスポーツを嫌いにならないでください”というメッセージを送りながらプレーすることなのか。それは一概には言えませんが、勝つこと以外の価値や意義を考えながらスポーツをすることは、人生でもきっと役立つと思います」

勝ち抜くのはたった1つの高校

日本のスポーツ指導者は「スポーツは、自分と相手に打ち勝つためにやるもんだ」「苦しいことに耐え抜いて、勝ち抜くことで自分自身が鍛えられるのだ」と勇ましい言葉を口にするが、トーナメントの甲子園大会では、勝ち抜くのはたった1つの高校。あとはおびただしい数の敗者だ。

そのことを考えればつねに「敗者」に対して思いを致すことは大事なことではないだろうか? スポーツで、大量得点差をつけて破った相手について考えること、思いやることは、決して「連戦連勝」ではない、選手たちのその後の長い人生を考えれば、案外大事なのではないか?

中村氏の言う通り、この議論に「正解」はないが、部活などで「大差がついた試合をどう終わらせるか」について選手たちで議論するのは有意義なことでないかと思う。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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