20、30代が「おせち料理」を作り始めた納得の理由 オンラインでおせちを学んで「開眼」した人も

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それでもおせち、というと、「時間がかかる」「難しい」というイメージがある。が、今井氏によると、生活背景も変わっているので、レシピも変化しているという。

「最近は、炊き合わせの食材を別々に作る人は少ないと思います。いっぺんに煮るので、全部同じ薄茶色になっているけど、そのほうが簡単です。黒豆も最初から味付けをした水で戻す。昔は家にある古釘を入れましたが、そういうものがない今は黒豆用の鉄や古釘が市販されています。それは後でぬか漬けに使えます」(今井氏)

今年は12月29日13~18時にZoomで生配信する予定で、山口氏のnoteで募集中だ。昨年の5品に田作り、松風焼き、菊花かぶも追加し、参加費は4000円に設定している。

自国の伝統文化がむしろ新鮮

今井氏が説明したように、おせちのレシピも進化し、昔ほど手間や時間がかからないものも増えている。重箱詰めを買わずに皿盛にする人も増え、現代の味覚に合わせて薄味にするなどの変化もある。社会が変わり、ライフスタイルが変わったことに合わせて、おせちも進化しているのだ。そしてコロナ禍の今、大勢が集まりにくくもなっている。それでも2021年は、おせちだけを持って親族を訪問する人もいたなど、何とかしてこの伝統行事を守ろうとする人は多い。

おせちを重箱詰めする習慣は明治以降に、女性誌などが宣伝して普及したもの。時代によって形を変えていくのは自然な流れと言える。一昔前は、おせちなどの伝統行事を時代遅れと感じる風潮もあった。それは保守的な上の世代が、変化する時代を押しとどめようと、下の世代にやや押しつけ気味だったことも影響しているだろう。目新しい洋食がおしゃれに見えたということもある。戦争で日本文化を礼賛した世代が信じられない、という世代もいた。

しかし今はすっかり社会がグローバル化し、食だけでなく生活のあらゆるところに外国発のモノがあふれかえっている。むしろ若い世代にとっては、自国の伝統文化が誇りを持つべき新鮮なモノに見えるのかもしれない。

そうした時代の変化に加え、コロナ禍で日々の暮らしを大切にしたい、という風潮は高まっている。改めて料理に力を入れる人も多い。何といっても、非日常のごちそうであるおせちは、作ると達成感があるうえSNSで映える。

このように盛り上がったり盛り下がったりをくり返しながらバージョンアップし、文化は継承されていくものなのかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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