無印良品が異例の「大量採用」に踏み切る舞台裏 間口を広げて「個店経営」の担い手確保急ぐ

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だが、現在は「マニュアル思考の悪い部分も出ている」(横濱氏)。細かな業務内容はマニュアルで決められ、無印が目指すべき理想も掲げられているものの、社員1人ひとりが問題意識を持って自発的に動くことが不足しているという。いわば個人の目標が、定められた業務の遂行にすり替わっている状態だ。

組織風土を抜本的に変えるためのカギを握るのが、2年前から始めた、最短3年目で店長になる制度の本格運用だ。

3年目店長は、年間店舗純増100に向けて店長の数を増やすためだけの制度ではない。若手のうちから“一店の主”になることにより、店舗オペレーションや販売員の育成、地域住民との関係作りを経験させ、個店経営の土台となる能力を養う狙いもある。

無印が目指す個店経営では、特産品や地場産業といった地域の特性に、店長の意思をかけ合わせて作る店舗運営計画が要となる。例えば、商品の仕入れは基本的に本部が標準のパターンに準じて行っている。それを今後は仕入れる商品や数量について、店長による仕入れ計画への「意思入れ」を重視する。商品棚の割り振りや売り方も、店長が決める権限がより大きくなる。

「無印への期待」を原動力にする

もっとも、現時点で店長の評価基準を大きく変える方針はない。評価の比重がいちばん高いのは従来通り店舗売上高で、今回の中計の肝である地域への密着も、今すぐ定量的な評価項目に反映するわけではないようだ。

地域密着のため、地元の店舗スタッフを正社員にする仕組みも本格的に運用する考えを強調した横濱氏(編集部撮影)

目に見えたインセンティブがない状態では、社員によって地域活性化などに取り組むモチベーションの差が出る可能性もある。

しかし横濱氏によれば、顧客からの期待に応えることが、無印の社員にとっては原動力になるという。

独自の世界観に共鳴するファンも多い無印では、長年のファンである株主らから、株主総会で商品へのクレームや要望が大量に出されることも珍しくない。顧客から「地域の学校が廃校になるから無印でどうにかしてくれないか」などと、事業と直接関係のない相談を受けたこともある。「無印は『期待されている』という点で恵まれている。期待されたら応えたくなるのが人間の本性」(横濱氏)。

かつてない拡大方針を掲げ、大勝負に出た良品計画。成長に向け、1人ひとりが問題意識を持って活動する風土と個店経営の基盤を構築できるか。異例の採用戦略は、その挑戦の第一歩となる。

東洋経済プラスでは、デジタル特集「無印の大勝負」で以下の記事も配信しています。

堂前新社長インタビュー前編
「無印は社会運動」と明かした真意

堂前新社長インタビュー後編
「店長育成」で大改革に踏み切る事情

山﨑 理子 東洋経済 記者

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やまざき りこ / Riko Yamazaki

埼玉県出身。大学では中国語を専攻、在学中に国立台湾師範大学に留学。2021年東洋経済新報社に入社し、現在小売り・アパレルを担当。趣味はテレビドラマのロケ地巡りなど。

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