ぼくたちが「利益を生まない図書館」を続ける理由 「他者の欲望」模倣より「ちょうどよい」身体実感

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これからは「みんなのため」ではなく、「自分のため」に生きていくべきだと思います。それは自分たちや身の回りのものを、「商品として見ない」ということです。より速く、より安い。1分1秒無駄にしないのは、商品的な価値観です。そして世の中で評価されることの多くは、商品的な価値観で成り立っています。まずはその価値観から一歩遠ざかること。世の中が教えてくれる「みんな」基準の人生から、「自分」のための人生へ。「みんなはどう思うか」ではなく、「自分はどう感じるか」へ。
(『手づくりのアジール』160〜161ページ)

現代において、他者の欲望は商品という形で身辺にあふれています。しかし本来、自分の欲望は商品としては流通していません。世の中には売っていないけれど、「こういうのが欲しい」という形をとって自分の欲望は尻尾を出します。そのときこそ、自分の欲望を知覚するチャンスです。

「ケアフルな状態」になるために重要なこと

さらに他者の欲望のテリトリーから出るためには、ぼくは以下のようにも述べています。

真っ先に「他者」の視線を意識するということは、まず市場のニーズを考えねばならない商品と同じです。こうした商品のような人の問題点は、「人が集まっていない」場所や「たくさんの人が求めていない」ものに価値を見いだせなくなってしまうことにあります。
しかし本来、他者が「自分との違いを確認できる相手」である必要はありません。他者は虫、花、タヌキだって、山、海、神さまだっていいでしょう。自分と比較不能の他者に囲まれた人生は豊かです。他者を自分と比較できる相手に限定してしまうから、他者が得ていないものを得ようとしたり、他者が知らないことを知ろうとしたり、他者が成し遂げていないことを成し遂げようとしてしまう。比較不能の平野に立つこと。それが「手づくり」の第一歩です。
(『手づくりのアジール』163〜164ページ)
『手づくりのアジール』(晶文社)(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「ケアフルな状態」になるためには、比較によって自分の存在意義を確保するのではなく、比較不能の他者に囲まれた場所を持つことが重要です。放っておくと、資本の原理はすべての物質を商品化しようとします。でも人は、必ずしも他者の欲望によって作られた商品から選ぶ必要はありません。

例えば、大学進学を目指す子どもに対して、そんな学部に進んだら就職できないから就職できそうな学部を選びなさいという親の言葉は、子に「自分の人生を商品から選べ」と忠告しているのと同じです。売り物にならないからと言われても、自分の人生を手づくりしていく。その権利を認め合える社会が、ぼくの目指す「ちょうどよい」状態なのだと思っています。

青木 真兵 「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター、古代地中海史研究者、社会福祉士

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あおき しんぺい / Simpei Aoki

1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。社会福祉士。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークとしている。2016年より奈良県東吉野村に移住し自宅を私設図書館として開きつつ、現在はユース世代への支援事業に従事しながら執筆活動などを行なっている。著書に『手づくりのアジール──土着の知が生まれるところ』(晶文社)、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館──ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』シリーズ(エイチアンドエスカンパニー)などがある。

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