野口聡一「宇宙空間でもメンタル安定させる極意」 寝られるときに眠ることが何よりも大事のワケ

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実際には、浮遊した体は頭の右側から壁面に向かってゆっくりとぶつかっただけだった。だが、心の内では「首を骨折したんじゃないか」と恐怖を感じていた。

このように、宇宙空間では、体の軸が決まって安定した状態にもかかわらず、地上とは勝手が違い、決して内面の安定には寄与しないことがうかがえた。

地上のテレワーク環境ではどうだろう。外界の騒音をシャットアウトし、ひとりで家の中にこもった状態にあるとき、確かに見慣れた空間にいれば、体は安定するのかもしれない。しかし、心は不安定になる。おそらく、目を閉じて宇宙空間を漂ったときの不安な気持ちと相通じるような気がする。

心の安定とは、身体的な問題よりも、ほかの人とつながっているという気持ちの問題に帰着するのかもしれない。逆に、煩わしい人と付き合うのを遮断することが安定を得る近道のことだってある。いずれにせよ、この問いかけには悩みが尽きない。

マインドフルネスの極意

アメリカで注目されている考え方に「マインドフルネス」(mindfullness)がある。これは、瞑想行為などを通じて脳をストレスから解放し、集中力をアップさせてさまざまな人間活動のパフォーマンスを向上させるというもの。ビジネス界や医療現場で話題になり、瞑想を社員の研修に導入している企業も出ているという。

こうした解説を聞くと、マインドフルネスとは日本語の感覚でいう「雑念を払う」「心を空っぽにする」と受け止められがちになる。

ところが、英語のマインドフルネスを「雑念を払う」という意味に捉えると、ストンと心に落ちてこない。なぜなら、マインドがフル状態になっているなら、頭の中は雑念でいっぱいになっているように聞こえるからだ。

おそらく、マインドフルネスとは、心が満たされて、良好な状態になっていることを指すのだろう。もう少し踏み込んで考えてみたい。

わたしがお寺で座禅を組んだときのこと。目を閉じて、雑念を追い払おうとするのだが、「今日この後、何時の電車だっけ」とか「週明けに面倒な会議があるなぁ」と余計な考えが浮かび、なかなか雑念は離れてくれない。「集中、集中」と言っているうちは何も始まらない。そんなかけ声自体が雑念なのだ。

そうこうしているうちに、モヤモヤと心を覆っていた雑念の黒雲をスーッと一陣の風が駆け抜けたかのように、ふと、雑念から抜けられる瞬間がある。

そのときだった。それまで聞こえなかったお寺の外の風の音が聞こえてくる。あるいは、本堂の端っこから漂ってくるかすかな線香の香りも明確に嗅ぎ取ることができるようになっている。

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