野口聡一「宇宙空間でもメンタル安定させる極意」 寝られるときに眠ることが何よりも大事のワケ
あらゆる知覚が覚醒され、周囲のささやかな刺激もどんどん吸収できる状態。五感がフルに働いて、周りの状況をあるがままに把握できる。もしかすると、これがマインドフルネスという状態なのではないだろうか。
宇宙飛行士は「シチュエーショナル・アウェアネス」(situational awareness)という言葉を好んで使う。「周りの状況をしっかり理解し、把握しておくこと」という意味だ。頭をすっきりさせて、周りの状況をあるがままに受け入れられる状態にしておく。そこから柔軟な発想が生まれ、新しいアイデアが生み出される。まさに、マインドフルネスに通じる考え方が宇宙の世界にもある。
宇宙で楽しめる本と音楽
今回の宇宙滞在では、パソコンでストリーミングができる環境に恵まれたので、オンライン上で本や動画を楽しんだ。最近は便利なもので、ネットで見逃し配信の仕組みが整っていて、日本のテレビ番組だって観ることができる。金曜の夜は食卓を囲んでみんなで映画を観るムービーナイトも楽しんだ。宇宙関連の映画もあれば、ディズニーチャンネルで映画「アベンジャーズ」のようなヒーローものやコメディまでジャンルを問わず観たものだ。
一方、わたしが宇宙に持参した書籍は、読書をしたいというよりも、手元に置いておきたい思い出の本ばかり。1983年に出版されて高校生のわたしを宇宙飛行士の世界にいざなってくれた立花隆『宇宙からの帰還』初版本。そしてスティーブン・ホーキング博士『A Brief History of Time』(邦訳『ホーキング、宇宙を語る』)の英語初版本は、ブラックホールについて書かれたもので大学時代に衝撃を受けた本だった。
ほかに、岡倉天心『茶の本』と世阿弥『風姿花伝』。わたしは1回目の船外活動をめぐって人間の「所作」について考えるところがあった。そこで、再び宇宙に行くにあたって日本人の古来の知恵はないかと考え、ひとつは茶の世界、もうひとつは能の世界と思い、2冊を持参した。
そして音楽。今はストリーミングの時代なので、パソコンを使っていろいろな曲を聴き流すことができた。日本実験棟「きぼう」で終日ひとりになって作業をするときは、モーツァルトを流すようにしていた。心が落ち着いて、作業に身が入る。
ロシアのチャイコフスキーもプロコフィエフも大好きだが、とくにプロコフィエフの曲をかけているとつい力が入り、気が散っちゃって仕事にならない。盛り上がって、自分で指揮まで始めてしまう。だから、邪魔にならないモーツァルトがいい。
その対極になるが、日本人女性3人組・Perfumeのエレクトロポップもよく聴いた。Perfumeの曲を流していると、ほかのクルーたちが近くを通るたびに寄ってくる。わたしがクラシック好きだと思ってやってきたら、ポップな曲を聴いているものだから、「何これ。いいじゃん!」とノリノリになったのを覚えている。
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