元教員が仕掛ける社会とつなぐ「複業先生」の凄み 教えるということが社会人の成長にもつながる

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まず、全クラスとZOOMをつなぎ、 “社会人先生”の代表が「デザインの目的」や「プレゼンの仕方」をレクチャーする。

初めて教壇に立つ“社会人先生”はやや緊張しながらも、言葉は熱を帯びる。Webデザインや企業へのプレゼン経験を活かし、生徒が興味を持つような例をあげて説明していく。「美術の授業ってあるけど、デザインと美術は違うんです。デザインは“メッセージを伝える”ための手段なんですよ」。「みんなYouTuberはよく見る? あれもプレゼンの一種なんだよ」――。

説明の後、各教室に“先生”2人が派遣され、生徒がポスターをもとにプレゼン。それを見て指導をする。「SNSの危険性」をまとめた女子生徒は独自にアンケートを取り、データも散りばめ、見やすくデザインしている。

生徒のプレゼンやポスターに対し、“社会人先生”がアドバイス。「なぜこのテーマを選んだのか、自分の体験をもとに語るべき」と、内容は実用的だ(筆者撮影・画像を一部加工)

それに対し、普段はネットショップの運営に携わり、企業にプレゼンしている“先生”がアドバイスを送る。「まず、なぜこの調査をしたのか。きっと身近な出来事があって興味を持ったんじゃないかな? それを冒頭で伝えることで、相手との共感を生み、プレゼンにもっと集中してもらえるよ」。

企業の新人研修のような実用的なアドバイスに、女子生徒は何度もうなずいていた。「本当はあったんです、そういう体験が。でも、新聞みたいに客観的なデータを並べたほうが良いかなと思っていました」。生徒も、進んで自分の意見を言うようになっていた。

教えるというアウトプットが社員の成長につながる

授業は合計1時間半で終了。“先生”として指導していた、入社5年目の男性社員に手応えを聞いた。「反省ばかりです。普段の仕事はお互いにビジネスの“共通のゴール”があるから意思疎通が楽でしたが、今回は違う。『どうやったら興味を持ってくれるのか』からのスタートです。教えながら、自分のプレゼン力の弱さを知りました。逆にこっちが勉強になりました」。

子どもたちに教えるというアウトプットが、社員の成長につながる。これこそが、企業がボランティアでなく、ビジネスとして教育現場に携わる意義なのだ。

東京都立葛飾野高校(東京・葛飾区)。20~30代の“社会人先生”がはじめての授業に臨んだ(筆者撮影)

生徒たちも、普段は得られない刺激を得たようだ。先ほど指導を受けていた女子生徒の声は弾んでいた。

「私、将来デザイナーになりたいんです。だから今日の授業は本当に楽しみで……。実際に“外の社会”って未知じゃないですか。どんな仕事を、どんな人がしているのかって。だからこういう授業、どんどん増えてほしいです」

“外の社会”は未知……。その言葉に、社会から孤立した学校の現状が凝縮されているように思えた。

外部の人材を欲する学校、教えることが人材教育につながると考える企業。これをビジネスとしてつなぐのが「LX DESIGN」だ。同社は元小学校教員の代表・金谷智さんが2018年に立ち上げた。教育に特化した外部人材活用サービスの名前は「複業先生」。“副業”ではなく“複業”という漢字には「本業の“サブ”の活動ではなく、本業とつながった活動として先生をしてほしい」という思いが込められている。

ボランティアでなく、ビジネスであることは、現場にもメリットがある。金銭が介在しているため、学校も“先生”に対し、厳しく成果を求めることができる。“先生”にも責任感が生じる。どうしても気を遣ってしまうボランティアと異なる点だ。

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