日本発「木から作るクルマ」が夢物語ではない理由 セルロースナノファイバー(CNF)に集まる期待

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まず、CNFは、木材チップを約1000分の1にしてパルプにし、それをさらに1000分の1にほぐしたもので、透明でドロドロとしたゲル状の物質です。このゲル状のものをそのまま固めれば鉄の5倍の強度をもち、プラスチックなどに練り込めば、元の何倍にも強くすることができます。前者は成形しにくくコストがかかってしまうため、現在、自動車に利用されているのは後者です。

冒頭のニュースにあったスーパーカーに使用されているのは、CNFをポリプロピレン(以下、PP)と混ぜ合わせた素材です。PPは衣装ケースなど、日常生活にも多く利用されているプラスチックです。無印良品に行くと、PP製品はたくさんのラインナップがありますよね。このPPの特徴は「破棄されたあと溶かして再利用が可能」であること。CNFとPPを混ぜ合わせたものも同様に再利用が可能です。

ここまで読んで、少しがっかりした人はいませんか。「なんだ。結局プラスチックを使ってるじゃないか!」と。そう思うのも当然です。コンビニのレジ袋も、カフェのストローも削減している時代なのですから。しかし、現在日本で使用されているプラスチック原料の5%がCNFに置き換わるだけで、年間約50万トンものプラスチックが使われなくて済むといわれています。「たった5%」でも大きな意味があるのです。

そして現在、CNFに混合するプラスチックを生分解性(微生物によって分解される性質)のものにした素材も作られています。これは100%自然界のものでできた地球に優しい材料で、すでに付け爪や食器など、商品化されています。

驚くべきCNFの多様性

CNFは「軽くて丈夫」なだけではありません。他にも優れた性質をたくさんもっているため、その利用は多岐にわたります。

性質の1つ目が「チクソ性」。チクソ性とは「ドロドロとしたゲル状のものに、圧力をかけるとサラサラに変わる性質」のことです。ちょっとイメージしにくいでしょうか。

例えば、ゲル状のものをスプレーすると塊で飛び出しますよね。しかしCNFは違います。CNFはゲル状にもかかわらず、スプレーすると、液体のように霧状で均一に広がります。これがチクソ性です。スプレーするときに吹き出し部分を指で押すことで、圧力がかかり、ドロドロのCNFがサラサラに変わるのです。

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