日本発「木から作るクルマ」が夢物語ではない理由 セルロースナノファイバー(CNF)に集まる期待

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このように、サラサラとしてベタつかないため、スプレータイプの化粧品の増粘剤としての利用が研究されています。

同様に、ボールペンのインクにCNFを混ぜると、書くときにペン先に圧力がかかるため、サラサラとした書き心地になります。「筆記描線がかすれにくい!」「ボテにくい!」という特徴を売りに、2016年、三菱鉛筆により商品化されています。

そして2つ目の性質が「体内に入れても害がない」です。CNFは基本的にはレタスなどに含まれる食物繊維と同じなので、適量であれば体内に入れても問題ありません。そのため、食品や医療分野での利用が期待されています。

京都大学のホームページによると、通常のソフトクリームは35度の部屋で6分程度で溶けて垂れ始めたのに対し、わずか0・1%のCNFを加えたソフトクリームは、16分たっても形が変わらなかったのだとか。これは、CNFのネットワークに支えられ、形が崩れにくくなるためです。夏の遊園地で「ソフトクリームが垂れて大惨事!」なんてことはなくなりそうですね。

発泡材料にも

その他にも「金属イオンを付着させる」という性質から、CNFの表面に抗菌消臭効果のある銀イオンを大量に保有させたシートが、大人用の紙おむつとして販売されています。2016年に日本製紙から発売された大人用おむつは、従来品の3倍以上の消臭効果をもつとのこと。介護する側もされる側も、助かりますよね。

また「発泡材料になる」という性質もあります。CNFで強化した樹脂を、二酸化炭素を使って発泡させると厚くなります。この素材は軽くてクッション性があるため、スニーカーのソールに利用されています。2019年に発売されたアシックスと隈研吾さんコラボのランニングシューズにCNFが利用されており、話題になりました。

このように、CNFはさまざまな分野で活躍できる素材です。そしてその活躍は、みなさんの近くですでに始まっているのです。CNFを使った生分解性樹脂材料「Nano Sakura」を開発したGSアライアンス社長の森良平博士は次のように述べました。

「炭素繊維は研究段階から実用化まで、40年かかっています。それと比べるとCNFの研究はまだまだこれからです。炭素繊維やガラス繊維も優れていますが、CNFには『天然由来で環境に優しい』という他にはない強みがあります。環境問題に貢献したい思いで研究開発に臨んでいます」

次ページコストは炭素繊維の6分の1程度
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