大学からの留学の早期再開を望むこれだけの理由 あらゆる問題を生む偏狭なナショナリズムを排除するために

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台湾問題、ウクライナ問題、北京冬季オリンピックの問題など、現在世界は緊張の中にある。政治家の外交判断がこうした緊張を生み出しているのだが、それを支える偏狭なナショナリズムがあり、危機を増幅させる原因に国際交流が減少していることも気がかりだ。人々が海外との交流を断ったことで、それぞれの国内で、異常なまでにナショナリズムが跋扈し始めているのである。

今回イタリアで驚いたことがある。日本人を含めアジア系の観光客がほとんどいないことである。さらに、ロマや移民といった、これまで観光地にあふれていた人々が姿を消していることである。彼らはどこに行ったのか、気になることであるが、例えばローマでは、移民や観光客のいない昔のヨーロッパが復活していることだ。こうしたことを背景に、昔の「良き」ローマを取り戻そうとする運動が起きないか、心配である。「すべての悪は外国人がもたらした」ものなのだという憎悪が、こうした形で醸成されていくからだ。

外国人へのみくびりは諸悪の根源

スピノザは、こう言っている。「高慢とは、人間が自分自身について正当以上に感ずることから生ずる喜びである。人間がほかのものについて正当以下に感ずることから生ずる喜びは見くびりと呼ばれる」(『エチカ』上巻、畠中尚志訳、岩波文庫、195ページ)

そもそも海外規制が厳しいのは、海外からコロナがやってくるという思い込みがあるからだ。だから国内では自由に移動しているのに、海外に対しては神経をとがらせる。これは為政者にとって極めて都合がいいことだ。悪はすべて外部にあるといえるからである。すべての悪の原因を外にもっていくことで、憎しみが外に放出されていく。こうして諸悪の根源である外国人への見くびりが生まれ、自らに対する正当以上の評価である高慢が生まれる。

筆者が若者たちの国際交流を、こんな状況下でも再開すべきだと進言している理由は、まさにここにある。他人を知らないことで自らを過大評価することのないようにすること、他人を正しく知ることで不当にさげすまないようにすること。それには、若者たちの人間同士のふれあいである国際交流を再開することである。

若者よ、多少のリスクがあっても、世界に雄飛せよ。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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