在任16年の独メルケル首相とは何者だったのか 人権と環境という相反する思想を実現した政治家
いよいよドイツのアンゲラ・メルケル首相の時代が終わろうとしている。2021年9月の議会選挙で次の首相が決まるであろう。しかし、いま出ているキリスト教民主同盟、緑の党、社会民主党のどの候補が新しい首相になろうとも、コロナ禍と大規模災害復旧の最中、かなり難しいかじ取りになるのは間違いない。
メルケルやフランスのオランド、サルコジ、フィヨン、ド・ヴィルパン、イギリスのブレアといった、筆者とほぼ同世代の政治家が去るのは寂しい気がする。まだロシアのプーチンが残ってはいるが。しかし、この世代が世界の政治において、是非はあろうが、大きく貢献したことは確かである。
欧州で極右・極左は左右統合が生み出した
この世代には1つの特徴がある。それは、それ以前の世代と違って、右派や左派といった言葉に対する抵抗感がそれほどないということである。だから左派政党あるいは右派政党に属していても、その間の中道というものを目指すことでお互いが似ているということである。言い方を変えれば、左派と右派を結合し、左右を不分明にし、左派政党や右派政党をそれぞれ吞み込んでいくのだ。
サルコジは、最初は社会党員になるつもりであったし、メルケルも東ドイツの社会民主党に入るつもりだった。ブレアやオランドという左派は、労働党や社会党という左派政権を、新自由主義に資する政権に変えていった。
まさにこの世代が残したものは、東西冷戦下に生まれた左右対立を、左右統合という形に変えたことだ。そのことが、左派政党や右派政党の崩壊を招き、極左と極右を生み出すことになり、極左と極右に対する、穏健派正統派政党という統一中道派を生み出したのだ。
メルケルに話を戻そう。彼女にとって決定的な衝撃は、1989年のベルリンの壁の崩壊であった。それまで東ドイツの科学アカデミーで物理学の研究者であった彼女が一躍、政治の舞台に躍り出たのは、この衝撃によるものであった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら