在任16年の独メルケル首相とは何者だったのか 人権と環境という相反する思想を実現した政治家

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だからこそ、社会民主党の政策、そして緑の党の政策を吸収してしまい。対立構図を曖昧にさせてしまった。だから、対立相手はむしろ「ドイツのための選択肢党」(AfD)になってしまい、大方の支持を受け、政権は安定することになったのである。

しかし、こうしたことはフランスでも同じで、中間派が左派となり、極右政党と対立するという構造を生み出している。だから社会党や労働党は弱体化したのだ。それは日本においても同じで、これまでの左翼政党が目立たなくなっているのである。

過去の思想が現在の思考を規制する

もっとも、これらの政治家はまったく真っ白なキャンバスに新しい政策を描いたのではない。戦後に生まれ、冷戦を体験し、なおかつ冷戦崩壊を体験した世代である。そこには、過去の社会主義的政策、人権政策、経済成長政策などが混在している。彼らが右傾化したと決めつけるのは簡単であるが、その時代に合わせた選択の中で、過去の思想を時代に合わせてきたのだというべきかもしれない。

その意味で、マルクスの作品『ルイ・ボナパルトのブリュメールの18日』の冒頭部分、バルザックの『シャベール大佐』の文章を引用している有名な部分を、最後に引用しておこう。これは、過去が現在のわれわれの思考をつねに規制しているということだ。この世代の政治家も過去と無縁ではない。もっといえば、新しい世代の政治家も過去に縛られることになるということだ。このことだけは忘れるべきではないだろう。

「人間は自らの歴史をつくるのだが、自ら選んだ自由な断片からつくるのではなく、直接に存在している、伝統的な、与えられた状況のもとでつくるのである。死せる、あらゆる世代の伝統は、生きているものの額の上に、悪夢のようにのしかかる。そして人間が自らを変革し、ものごとを変革し、いままでそこになかったものをつくろうとするとき、まさに革命の危機のこうした時代において、人間は過去の精神を、自らの仕事のために呼び出し、こうした旧い価値ある衣服と、こうした借り物の言葉で、新しい世界史的舞台を演出するべく、彼らの名前、秩序の言葉、衣服を借りてくるのである」(拙訳)
的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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