「4つの類型」の「国境紛争」が今後激化する理由 移民、アイデンティティー政治、遺恨、囲い込み
地政学研究の第一人者であるロンドン大学のクラウス・ドッズ教授が、人新世で激化する新しい「国境紛争」の概念に迫った新刊『新しい国境 新しい地政学』から一部抜粋してお届けする。
地政学に欠かせない「国境の物語」
国境の物語は私たちの日々の地政学に欠かせない。なぜなら、そうした壁や柵は、国境が真に開かれたものになることを十分に妨げているからである。
国境紛争の話題を聞かぬまま、1日が過ぎ去ることは滅多にない。扇情的なメディアは、それに加えて、どれほど難民が苦しんでいるかや、どの国が国境警備への投資を増やし、あるいはパンデミックや自然災害によっても滞ることのない警備計画を誇りにしているかを報道する。
世間の注目は国境を越えようとする人々に集中しがちかもしれないが、重視すべき国境の物語はそれだけではない。
国際的な金融界とビジネス界は、複雑きわまるルールと手続きを数十年がかりで静かに構築し、ペーパーカンパニーや海外金融センター、銀行秘密法、パスポートの購入、市民権の付与、政府や国際機関との共謀などの手法を組み合わせて、カネや投下資本を動かしてきた。金融改革が約束されてもなお、多国籍企業と超富裕層には一般人とはかなり違った国境のルールが適用されることを、世界中の市民が見て取ることができる。
新型コロナウイルスのパンデミックによって、数多くの特権的な人々が、通常はかいくぐっている移動性と国境の「網」に──少なくとも一時的に──かかった。
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