「4つの類型」の「国境紛争」が今後激化する理由 移民、アイデンティティー政治、遺恨、囲い込み
今後も残る国境紛争の2つ目の類型は、宿年の対立とその遺恨に根ざしたものだ。アイルランドの人々(南北を問わず)にとって、ブレグジット(英国のEU離脱)は最悪の場合、国境をまたいだ生活を引き裂き、監視とパトロールをまたぞろ増強させかねないものだ。南アジアでは、インドとパキスタンが新たな国境技術への投資を続行し、また数々の国境侵犯や治安の侵害をめぐって互いを延々と非難し合っている。中国は、その状況の混乱要因となるだろう。なぜなら山岳地帯での彼らの紛争が、水の供給や広大な国境地帯への戦略的アクセスといった本源的な問題に触れるものであることを、この3カ国のいずれもが認識しているからである。
小国と大国の対立も
世界には、そうした負の遺産をさほど歴史から受け継いでいないにもかかわらず、国境対立が激化の一途をたどっていく地域も数多い。1991年のソ連の崩壊後、中央アジアの各共和国は、新たな隣国である中国との間に、未解決の国境紛争を数多く抱える立場となった。ソ連軍の庇護を失ったそれらの小国は、領土の割譲を余儀なくされることも多く、時にそれは何千平方キロメートルもの土地と水域に及んだ。たとえばタジキスタンは、2011年に、水の豊富なパミール高原内のおよそ1000平方キロメートルを正式に手放している。
このような「譲歩」を政治的にさらに危険なものにしているのは、その同じ国々が激しい反中感情にとらわれ、中国からの移民や、企業の所有、農業への関心などに抵抗を示していることである。中央アジアの国々の多くは負債を抱え、中国の投資と貿易に依存している。中国の気前のよさから頻繁に恩恵を受けている各政府には、中国嫌悪を抑え込む強力なインセンティブがある。今後はそれが、より強化されていくかもしれない。
中国とタジキスタンは、不安定なアフガニスタンから“あふれ出してくる”影響を恐れて、「国境警備」プロジェクトで緊密な協力を行ってきた。中国軍は国境沿いをパトロールし、タジキスタン国内では同国の部隊と一緒に活動している。中国は分離主義や、自分たちが宗教的過激主義と見なすものが、中国の影響圏の内外で足がかりを築かないようにすることに躍起なのである。国境問題はアイデンティティー政治や、公的な文化、国民の教育に欠かせないのだ。
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