誰にもできない仕事を選べ 岡野工業株式会社社長・岡野雅行氏①

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おかの・まさゆき 1933年東京都墨田区生まれ。45年向島更正国民学校卒業後、家業の金型工場を手伝う。72年に父親から家業を継ぎ岡野工業株式会社を設立、代表に。「技術的に難しくて誰にもできない仕事をする」をモットーに、「痛くない注射針」などを開発。旭日双光章など受賞多数。

ウチは社員が5人で売り上げが6億円の小さな町工場。今でこそテルモ向けの「刺しても痛くない注射針」を開発し、さらに名が通るようになったが、これまで大会社には、だまされっぱなしだった。

 「こういうもの作れませんか」と図面を持ってくるので、サンプルを作って渡す。するとその大会社はサンプルを持って自分の息のかかった下請けのところへ行き、「おまえ、これできるか」とやる。そうして最終的にその仕事は彼らがとる。ウチから作り方のアイデアだけ出させて、おカネは1円もよこさない。そんなことの繰り返しだった。

昔、ソニーのウォークマンの電池ケースを手掛けたことがある。それまでのケースは溶接したもので、液漏れが問題だった。電池を納めていた京都のメーカーは、ソニーにかんかんに怒られたらしい。困ったそのメーカーはソニーに「では、できるところを紹介してほしい」と頼んだそうだ。それでウチに頼ってきた。

誰にもできない仕事ばかりを選んで実現するようにした

この液漏れ問題を解決するには、メッキした鉄板を、そのメッキをはがさないようにプレス加工して小さな箱形にするという、世界初の技術が必要だった。ほかの誰もできない仕事で、そのメーカーの人が平身低頭して頼むから、じゃあやるか、となった。新しい作り方を工夫し、1個38円で月100万個、納め始めた。

注文量が増えてきた頃、マブチモーターの下請けをやっている知り合いの工場経営者が、中国に仕事を持っていかれて困っていると言ってきた。人間的にはまじめな人だったから、金型や潤滑剤などすべて渡し、電池ケースの仕事を外注にした。

価格については「言い値で買うから、絶対儲かる値段を出してこい」と、その工場経営者に言ってあげた。1個20円と言ってきたので検査料2円を上乗せして22円で買うことにした。それから1年ぐらいしたらその経営者が突然、「岡野さんの下請けは明日からやめます」と言ってきた。

京都のメーカーと直接取引をするようになりましたから、と言う。しかもその値段は1個18円。ウチに納めていた22円よりも安い。それでも京都のメーカーと直接取引できるほうがいいと思ったらしい。浅はかだね。そんな安値競争に入っていったら大会社の思うツボ。その工場は技術がないからその後、どんどん値切られ、最終的に潰れてしまった。

結局大会社は、われわれ町工場に、「とにかく安く作れ」としか言ってこない。だからウチは、安値競争にならない、誰にもできない仕事ばかりを選んで実現するようにしたんだ。

週刊東洋経済編集部
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