特許は大会社と組んで取る 岡野工業株式会社社長・岡野雅行氏③

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おかの・まさゆき 1933年東京都墨田区生まれ。45年向島更正国民学校を卒業後、家業の金型工場を手伝う。72年に父親から家業を継ぎ、岡野工業株式会社を設立し、代表に。「技術的に難しくて誰にもできない仕事をする」をモットーに、「痛くない注射針」などを開発。旭日双光章など受賞多数。

岡野工業は、技術力が命の町工場だ。だから特許戦略がとても重要になる。「特許さえ取ればこっちのもの!」と思う人もいるようだが、それは大きな勘違い。特許を取ってもひどい目に遭っている人を何人も見てきている。ウチみたいな小さな町工場は、単独で特許を取っても何の意味もないんだ。

大会社がその特許技術を欲しかったとする。そのときに「お願いします。その技術を使わせてください」なんて頭を下げてくることはまずない。大会社は知らん顔して商品化してしまうんだ。そんなことをしたら特許権侵害で訴えられるのは百も承知。確信犯的に作り始めるんだ。

それを知った町工場が訴えても、実はなかなか勝つことができない。どんなにこちらが正しくても、大会社はカネに飽かせて専門の弁護士を大勢雇って、裁判を長引かせる。結審する頃には技術自体が古くなり、賠償金も大して取れない、ということになってしまうんだ。

大会社と特許を取ると、権利だけでなく、宣伝の効果も

だから俺は、特許は大会社と組んで取るようにしている。前回話した「痛くない注射針」も、テルモとの共同出願にして世界中で特許を取った。テルモから相談を受け、板を丸めて作るという、従来にない方法を思いついたとき、真っ先に担当者に言った。「会社に帰ったら、すぐに特許を取る準備をしてくれ。発明者は岡野工業。特許出願者はテルモでいいよ」と。

こうして大会社との連名で特許を取っておけば、ほかの会社も手を出しづらい。大会社は海外の情報網も発達しているから、どこかでまねをしていたらすぐに対応できる。ぼやのうちに火を消せるんだ。

連名特許にはもう一ついいことがある。PR効果がすごいんだ。テルモと岡野工業の名前が対等に並ぶ。ウチはトヨタ自動車とも共同で特許を取っているから、トヨタとも対等に名前が並ぶ。そんなのがいくつも出てくれば「岡野工業とはいったいどういう会社なんだ!?」と話題になる。世界特許だから、海外のメーカーも目にする。

実際、注射針の装置は、中国のある企業から、びっくりするような金額で、機械を丸ごと売ってくれないかという話が来た。同じような話はドイツからもあった。特許の効果だろうね。でも、一式持っていっても、金型のメンテナンスができないから同じモノを作り続けることはできない、と結局あきらめて帰っていったよ。大会社と組んで特許を取るというのは、権利を守るだけでなく、宣伝の効果も大きいんだ。

週刊東洋経済編集部
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