「同一労働同一賃金」で正社員の手当がなくなる日 分厚い既得権に守られた時代は終わりに向かう
例えば通勤手当をめぐっては、ある物流会社とドライバーの間で争われた結果、待遇差は「不合理」との判決が出ている。交通手段や通勤距離が同じなのに、正社員と契約社員で金額の差があってはならない、というものだった。また皆勤手当・精勤手当では運輸会社などで、正社員と嘱託乗務員で皆勤を奨励する必要性に相違はない、との判断が下された。給職手当や年末年始勤務手当、割当賃金なども同様だ。
一方、住宅手当・住居手当や家族手当・扶養手当は、「不合理」と「不合理でない」で分かれた。これらは最高裁においても、正社員と非正社員で差をつけていいのか、まだ統一した答えが出ていないとも言える。
企業にとっては、両者の差を埋める場合でも、低い方に合わせ、正社員の賃金を一方的に下げると、不利益変更ととられかねない。といって、正社員はそのままで、非正社員のみ賃金を底上げすれば、人件費全体の総額は増えてしまう。特に社員数が膨大な企業にとっては頭の痛い話だ。
いずれにしても、長年“既得権”だった正社員の手当について、今後見直しが入る可能性は高い。今まで正統性があいまいだった手当をなくし、基本給に組み込む動きも強まっている。
健康保険や厚生年金でも正社員と非正社員に差
先手を打った企業もある。例えばデジタルマーケティング事業が主力のメンバーズ社。同社は正社員への住宅手当や在宅勤務手当などを取りやめた。同時に非正社員の正社員化も進める。
「持ち家のあるなしなどで手当を払うのではなく、われわれはスキルや能力に対して報酬を払う」(高野明彦取締役)方針を明確にした。まだ柔軟に対応しやすいベンチャー企業ならではの利点だろう。
既存の大企業でも、日本郵政は転居を伴う異動のない正社員に対し、住居手当を10年間かけて段階的に廃止する方向で進めている。
賃金だけではない。正社員と非正社員の格差は、健康保険や厚生年金など福利厚生面でも残っている。非正社員の低い加入率には、加入要件を満たしているのに、企業側が手続きを怠っている問題もあるとされる。
今や非正社員の人数は2060万人に達し、雇用者に占める比率は36.6%を占めている(「労働力調査」総務省、2021年7~9月)。ルールを改廃するなら、会社側には、正社員と非正社員のどちらにも、今後は一層丁寧な説明が求められよう。同一労働同一賃金の波は、日本企業全体の雇用体系を揺るがし、シニア・ミドルの懐にも大きな影響を与えそうだ。
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