仏大統領選で人気急騰「超過激な極右候補」の正体 政治経験ゼロ、イスラム移民排撃するゼムール氏

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フランス内務省の調査で近年、約8割の国民が治安悪化を肌で感じると答え、治安と移民問題の関連が論じられることは多い。

2000年に入ってから麻薬密売の急増と路上でのスリや空き巣被害が多発する中、ギャング間抗争も激化した。2007年の中央情報総局(SCRT)のレポートによれば「ストリート・ギャングが新たな国家の治安への潜在的な脅威と見なされる」と指摘している。

伝統的ギャングの進化系といわれる通称「新盗賊」は「問題を抱える地区で増加したギャング化した青少年が組織犯罪へ流れる現象」だという。その問題を抱える地区こそ、アラブ系移民が集中する大都市近郊を指す。

ギャング化したアラブ系の青少年は「マフィアに触発され、例えば、麻薬密売では年少者は見張り役で、16〜22歳のメンバーは麻薬調達や直接の売買を担当するといった具合だ」とSCRTは言う。

さらに犯罪行為は高度化し、ビジネスや中小企業の設立への投資を通じてマネーロンダリングを管理することもあると当局は指摘している。

大都市郊外のギャングは、組織化された人身売買の枠組みの中で、さまざまな都市暴力に加担している。そこには北アフリカ・マグレブ諸国のモロッコやアルジェリアの犯罪組織が都市部でスリやひったくりを組織的に行っていることが確認されている。

政府への国民のいら立ちは頂点に達している

また内務省は、通常の犯罪組織に加え、イスラム聖戦主義組織の資金調達、テロリストのリクルート、武器調達にもつながっていることを認めている。内務省の長年の調査の結論としてギャングと組織犯罪、テロリズムという三者の関係の深さが近年の実態で、一般市民が治安悪化を肌で感じている背景となっている。

こうした深刻な問題があるにもかかわらず、政府が適切な対処をしていないことへの国民のいら立ちは頂点に達しており、ゼムール氏の支持拡大の追い風になっている。

ゼムール氏の反移民発言への反応の大きさを見て、ほかの大統領候補者も口々に治安問題を語り出した。ほかの候補者が移民問題への言及を避けてきたのは、移民問題は同国が敵視する人種差別、宗教差別に触れることになり、誰もが触れたくないテーマだったからだ。

次期大統領選で有力視され、治安対策で国民の期待度が最も高い極右・国民連合(RN)党首、マリーヌ・ルペン候補(53)でさえ、移民問題への言及はトーンダウンしていた。

支持基盤を拡大し続けるRNは、移民排撃が売りだった父親のジャン=マリー・ルペン氏の時代と違い、政権政党をめざすために穏健化。弱者救済という左派の主張に似た政策を出して、今や移民にも寄り添う政党になりつつあるからだ。結果、移民にいら立つ国民の関心はゼムール氏に向かうことになり、慌てて移民問題を取り上げている。

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