仏大統領選で人気急騰「超過激な極右候補」の正体 政治経験ゼロ、イスラム移民排撃するゼムール氏

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中道右派を代表する野党・共和党(LR)は12月4日、元予算相のバレリー・ペクレス氏(54)を公認候補に選出した。彼女は伝統保守を代表する政治家で、フランスの左傾化、イスラム化を食い止める政治家と見なされている。彼女も移民・治安問題に正面から取り組む発言が増えている。

支持率で先頭に立つマクロン氏への風当たりも強い。警官の増員、刑務所の増設などの約束を十分に果たしていないマクロン政権の下で治安は回復していないからだ。

夜間にパリ市内で数人のグループに襲われ、バッグを奪われたフランス人女性は「彼らは一言もフランス語を喋らず、終始アラブ語を喋っていた」と怒りを露わにした。ゼムール支持派は同様の体験を引用することに余念がない。

パリ南郊に住む夫婦ともに建築家のポワリエ氏は「事務所の周りで何度も車の窓ガラスを割られ、パソコンや家の鍵の入っていたバッグを盗まれた」「いったいこの国は誰のものか分からない」「フランスは移民受け入れ政策に失敗したのに、差別はよくないと建前だけを言う政治家は、国民の不満や不安に応えていない」として、夫婦ともにゼムール氏に投票すると言っている。

勢いが止まらないゼムール旋風

ゼムール氏は「何でもあり」の左派がフランスを変えてしまい、後戻りできないところまで来ていると警告する。反共の闘士だったジャン=マリー・ルペン氏を彷彿とさせる。

リベラルメディアが多数を占めるフランスでは、ゼムール潰しの報道がほとんどだが、勢いは止まらない。過去のいかなる時期よりも移民に対する不快感が高まっており、移民保護を重視する左派勢力は政治の影に隠れている。

フランスの衰退、国際社会での地位低下を訴えるゼムール氏は、「アメリカを再び偉大にする」と言ったトランプ前大統領、「アメリカが戻ってきた」と叫ぶバイデン現大統領に似た発言を繰り返すことで、支持を拡大している。

筆者がインタビューした仏西部ブルターニュ地方で老後を過ごすゼムール支持者のテキシエ氏(70)は移民へのいら立ちを露わにする。

「彼らは政治が不安定で内戦を繰り返し、貧困が蔓延する中東から先進国のフランスに逃げてきたくせに、フランスの制度や価値観を学ぼうとしない。その一方で彼らの国の貧困や内戦の原因となっているイスラム教の生活習慣や考えを維持している。実に愚かで、彼らを受け入れたフランスに対して無礼だ」と批判している。

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