韓国発「悪魔的なパン」が日本人を魅了する必然 単なるマリトッツォの後釜ではないマヌルパン

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一昔前まで、外国発の流行といえば先進国の欧米の一部に限られていたが、近年はアジアの経済発展が著しい。特に韓国では次々とさまざまなトレンドが発生し、その情報が入ってくるようになった。ネガティブな側面も含め、日本の影響を多く受けてきた隣国ならではの文化的な親しみやすさも、流行を飛び火しやすくさせていると言える。

コロナ禍の2020年からは第4次韓流ブームと言われる。現地へ行くことはできないが、映画『パラサイト 半地下の家族』やドラマ『愛の不時着』、BTSなどK-POP、韓国のエッセイ集や小説の刊行が相次いで書店で韓国コーナーができるなど、日本にいても楽しめる韓国発の流行が爆発。良質な作品を次々と発信する韓国文化のファンが増え、流行が生まれやすくなっていることも、韓国で話題のパンに好奇心をそそられる人を増やしているのではないだろうか。

わかっているけれど、やめられない

ところでニンニクを効かせたパン、という特徴から連想するのは、最近流行しているジョージア料理の強烈なほどニンニクを効かせたクリームシチュー、シュクメルリだ。考えてみればここ数年は、刺激の強い食が次々とヒットしている。強炭酸ドリンク、唐辛子と花椒を効かせた麻辣ブーム、スパイスカレーなどである。

今という時代は興味深いことに、糖質制限、オートミール、ヴィーガン料理など、健康維持のための食への関心が高まる一方で、濃厚ラーメンの店が巷で多いなど、カロリー過多の背徳的な食も流行する。コロナ前から、SNSでバズるレシピは、天かすや青のりが入った「悪魔のおにぎり」や、めんつゆを効かせた「無限ピーマン」など、味にパンチがあり病みつきになるものが多かった。

健康のため、油脂や糖分、炭水化物を摂り過ぎないほうがいい、と頭でわかっていても、いや、わかっているからこそ、たまには濃厚でアンヘルシーな食のおいしさに浸りたい、と考える人は多いのだろう。マヌルパンのニンニクの刺激とたっぷりの油脂は、間違いなく人々を魅了する。

これから、マヌルパンを売るパン屋はもっと増えるかもしれない。何しろ、最近のパンの大きな流行は、既存店にとってあまり恩恵がなかった。先に挙げたコッペパンも、2013年から人気が続く高級食パンも、主に専門店が販売している。しかし、マリトッツォとマヌルパンは、パン屋がこれまでの技術を生かして販売することができる。マヌルパンの話題性にひかれてやってきた客は、ほかのパンも買っていくかもしれない。

流行を楽しみたい消費者にとっても、販売を拡大したいパン屋にとっても魅力的なパン。それがマヌルパンである。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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