「とろみ飲料」自動調理器が介護施設で担う使命 富士電機が投入、人手不足解消のカギとなるか

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富士電機ではペットボトルや缶の自販機だけではなく、セブンイレブンなどのコンビニのコーヒーマシンといった自動調理器も扱う。

温度管理や撹拌といった従来技術を応用して、1年かからずに試作品の開発に成功したが、苦労もあった。とろみ剤を「混ぜるだけ」と思われがちだが、撹拌が中途半端だと「だま」ができてしまう。そのためパドルと呼ばれるマドラーを1分間に約6000回転させなければならない。より混ぜ合わせるためにカップを左右に揺らしたり、お湯を入れるタイミングが早すぎないようにするなど、細かい調整も不可欠だった。

「自分が人力でこの飲料を毎日作れと言われたら、ぞっとする」。設計担当の中島一秀さんは当時をそう振り返る。地元の介護施設に実験機を持ち込み、お年寄りでもとろみ飲料を取り出しやすい取り出し口の高さやボタンの配置も調べ上げた。「介護施設の職員さんの苦労が身にしみてわかった」と中島さん。「この機械があれば、職員さんは1日に1回掃除などのメンテナンスをすれば済む。少しでも苦労を減らせれば」と話す。

23年度に販売台数3000台を目指す

富士電機の自動調理器はとろみの強さを3段階で選べるなどの機能もあり、こうした細かい点についても、利用者からの評判は上々だという。介護従事者からは「手間が省ける」、高齢者からも「飲みやすい温度でいい」「とろみのありとなしで味が変わらなくていい」といった感想が寄せられた。他地域の施設に話を聞いても「とても興味を持ってもらえた」(販売担当の秋本哲営業第二課長)と手応えを感じたという。

とろみ飲料自動調理器(写真:富士電機提供)

ただ、発売するタイミングがよくなかった。本格的な販売開始は2020年3月、折しも新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した時期だ。顧客となる介護施設は厳重な対策が求められ、とても新しい設備を検討できる状況ではなかった。販売できたのは数百台にとどまっている。

感染拡大が比較的落ち着いてきた2021年度後半からは本格的な拡販に乗り出し、2023年度に3000台の販売台数を目指す。販売対象となる老人ホームやデイケア施設は全国に2万件、病院や調剤薬局はそれ以上にある。同社は広い市場があるとみて、売り込みをかけていく予定だ。

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