日本の経済安全保障「軍事領域」で押さえたい要点 新興技術との繋がりに不可欠な保全・育成・連携

✎ 1〜 ✎ 82 ✎ 83 ✎ 84 ✎ 最新
拡大
縮小
軍事領域の経済安全保障3:国際的な連携を推進する

経済安全保障と軍事技術をめぐる重要な論点は、国際的な連携を推進することである。日米同盟の観点からは、ミサイル防衛(SM3ブロックIIA)の共同技術開発が実施され、すでに完成品を配備する段階まで進捗した。日米の防衛装備品をめぐる次の柱となる共同技術研究・開発の推進が望まれる。日米が直面するのは今世紀最大の安全保障上の課題といえる中国との戦略的対峙である。日米が軍事技術をめぐる共同研究・開発を通じて、この安全保障上の課題を克服する国防・産業協力を推進することが望まれる。

アメリカとの輸出管理をめぐる政策協調はとりわけ重要である。アメリカの再輸出規制の域外適用には日本の産業界からの批判も根強い。アメリカが日本とともに新興技術の対象や懸念すべきエンドユーザーに対する情報交換を平素から行い、エンティティリスト(アメリカ商務省産業安全保障局(BIS)が発行している貿易上の取引制限リスト)や軍民有業企業指定などの規制措置については、アメリカの一方的指定ではなく同盟国との協議を前提とするのが望ましい。そのために、日米で外務・経産省によるハイレベル協議を定例化することが重要であろう。

防衛装備品の海外移転の推進

最後の論点は、防衛装備品の海外移転の推進である。防衛装備移転三原則(2014年)の決定から7年が経過したものの、日本からの防衛装備移転はオーストラリアへの潜水艦、タイへの防空レーダー、インドへの救難飛行艇などがいずれも失敗し、フィリピンへの監視レーダー輸出を除き、確たる成果を挙げていない。日本の防衛産業が海外市場を獲得し、日本と友好国との防衛協力を推進するためにも、防衛装備品移転を強化するガバナンス改革は急務である。

この連載一覧はこちら

経済安全保障をめぐる議論で、日本は戦略的な自律性と不可欠性の確保を重視した議論を進めている。安全保障分野での取り組みの課題は山積みだが、その前提として軍事領域の技術への洞察力を深めることが重要である。

(神保謙/アジア・パシフィック・イニシアティブ-MSFエグゼクティブ・ディレクター、慶應義塾大学総合政策学部教授)

地経学ブリーフィング

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT