善戦で始まった岸田政権のコロナ対策に映る不安 幽霊病床や薬の対策は良いが追加接種は大丈夫か

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11月22日現在、国民の44%が追加接種を終えている。イスラエルで追加接種の効果は劇的だった。10月7日、イスラエルの研究チームはアメリカ『ニューイングランド医学誌』に、追加接種の有効性について、追加接種から12日が経過した段階で、非接種群と比べ、追加接種群の感染率は11.3分の1、重症化率は19.5分の1まで低下したと発表している。

この結果を受けて、主要先進国は追加接種を始めた。主要国で、追加接種が進んでいないのは、日本だけだ(図2)。イスラエルに次いで追加接種が進んでいるのはイギリスで、国民の23%(11月22日現在)が接種を終えている。イギリスでの感染者の増加は、比較的緩やかだ。

図2

「準備が整わない自治体に合わせる」でいいのか

日本政府は、可及的速やかに追加接種を始めるのが望ましい。相馬市は12月から高齢者に対して接種を始めることができるよう準備を進めてきた。このような自治体を応援することこそ、岸田政権の責務だが、そのつもりはなさそうだ。

これは「2回目の接種を行っている中で今から3回目の接種の準備にまで手が回るか心配だ」(豊島区担当者、9月17日)、「集団接種の場所も医療従事者も、今から前倒しして確保するのは難しい」(保坂展人世田谷区長、11月6日)、「月曜日の厚生労働省の専門家の分科会の議論では急に6カ月の話が出て、現場としては困惑し、会場の確保が厳しいと思っていた。今日の説明会の中で、国からは、これまでどおり基本は8カ月ということだったので、一安心した」(澤田健司・豊島区ワクチン接種担当課長、11月17日)など、主に都市部の自治体からの抗議を受けてのものだ。

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私も、厚労省の朝令暮改に振り回される自治体担当者の苦労はわかる。ただ、準備が整わない自治体に合わせて、追加接種を遅らせることが、果たして正しいのだろうか。これでは国民の命を軽視した「護送船団方式」だ。国民の命より、行政の都合を優先したことになる。岸田首相がリーダーシップを発揮することで、方向転換を願いたい。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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