アメリカは6月9日に170万人分を12億ドルで購入する契約を締結しているし、イギリス政府も10月20日に48万人分を確保したことを明かした。水面下での交渉は以前から続いていた。諸外国が契約を急いだ理由は、メルクの製造能力に限界があることを知っているからだ。メルクが提供できるのは、2021年内に1000万人分、2022年に2000万人分にすぎない。
厚労省は出遅れた。メルク日本法人であるMSD社は、厚労省に対して早い段階から情報を提供し、契約締結を提案していたが、厚労省は動かなかった。彼らが事態の深刻さを知ったのは、「10月1日にメルクが臨床試験の結果を公表してから」(厚労省関係者)だ。MSDとの交渉窓口となった医系技官チームの情報収集能力や理解力に問題があったのだろう。
岸田政権の挽回で年内20万人分を確保
岸田政権は、この状況を挽回した。11月10日、政府は160万人分を確保したと発表した。年内に20万人分で、アメリカの約1割だが、「日本政府の面子が保てる量が確保できた」(政府関係者)とされている。これは岸田官邸が、厚労省の担当者を従来の医系技官から、事務系キャリアに変更したからだ。担当者が交代して以降、「交渉は一変した」(政府関係者)。
コロナ流行直後、鈴木俊彦・厚労省事務次官(当時)は、「コロナは医系技官マター」という主旨の発言を省内で繰り返し、適材適所とは言いがたい人事を続けてきた。岸田政権は、このような厚労省の慣習に楔を打ち込んだ。
岸田政権と前政権の違いはなんだろう。それは岸田首相の周囲には開成高校OBや財務省関係者などのブレーンが多く、厚労省とは異なるルートから情報を得ていることだろう。政権発足以降、筆者にも旧知の財務省関係者からの連絡が増えた。
これは前政権とは対象的だ。はたして菅義偉・前首相が信頼できる専門家はいたのだろうか。私はいなかったと考えている。ワクチン接種の促進という点では大きな功績を残したが、幽霊病床の問題を放置したのは象徴的で、総じてコロナ対策は迷走が目立った。
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