「結局、ビジネスが生まれるのは大都市」である訳 コロナ禍で地方移転を決めた企業もあるが…

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人間には動物(ヒト)としての生理的な感覚もありますが、食事の好みなどを除けば、それらの個人差は実はそれほど大きくありません。カロリーが高い食べ物、栄養価の高い食べ物は、どんな人にとっても高カロリーであり、栄養豊富です。

生きるには十分なレベルで、それなりに栄養のあるものを食べられるのに、普通の食事に飽き足らず、美食の追求にお金をかける人が少なからずいる。それは、食が単なる「生きるための生理的な行動」の枠を超えた「文化」になっているからこそです。

「文化」が「価値観の差」を生む

自動車もわかりやすい例です。基本的に自動車は「移動するための機械」ですが、それに対する価値観はさまざまです。電気自動車こそ最高のクルマだという人や、レトロな自動車をこよなく愛する人、サーキットでなければ出せない速度で走れるスーパーカーが好きな人もいます(私自身も以前は3台を所有するくらいのクルマ好きでした)。

「普通に走れたら何でもいい」という価値観の人がいる一方、本当のクルマ好きは特殊なパーツに何万円、何十万円を払うこともためらいません。つまり、クルマは単なる「移動する機械」ではないという「文化」が、こうした「価値観の差」を生んでいて、それを見つけることが企業の利益にもつながるということです。

そして、いまの時代にこうした「文化」が生まれ、それを知る人たちが集まるのが都市部だからこそ、企業は都市と切っても切れない関係にあるのです。

確かに、東京や大阪、名古屋といった大都市以外に拠点を置き、活躍されている企業経営者もたくさんいます。ただ、少なくとも私が知る限りでは、そのような方々の大半はフットワークが軽く、商談などの予定がなくとも定期的に大都市に足を伸ばして街を観察し、経営者仲間と会って情報収集をしています。

なぜか? 結局のところ、「人が集まる場所で文化が生まれる」というのが大原則であり、それはコロナ禍を経ても変わらないからです。

地方創生の成功事例を見ても、その場所に「考える力」や「文化への洞察」を持った人たちが集まるきっかけが何かあって、全国的にも話題になるようなアイデアが生まれるのであり、最初は人ありきでしょう。

当たり前の話ですが、魅力的な人材なくして、魅力的な発想は生まれません。私の会社は東京に本社を構えていますが、もし東京が魅力的な経営者・企業が集まる場所でなくなるようなら、移転を考えるはずです。

付け加えれば、地方創生における一握りの成功例を除いて、日本の多くの場所で衰退が進んでしまっていることには、地方における「クルマ社会」の発達が大きく関係していると私は考えています。理由は、クルマ社会では、移動のプロセスにおける「偶発的な出会い」が少ないからです。

先日、ある電力会社の役員の方と、自動車で地方の視察にご一緒しました。目的地へ向かう途中、商店街なども見てきたのですが、道路を挟んで両側にシャッターの閉まったお店が並んでいますし、そもそも誰も歩いていません。

同じような道路でも、人が多く集まる都市部なら、歩行者天国にすれば、露店なども含めて小さなお店でも目につくので、きちんと見てもらうことができる。スモールビジネスが成り立つということです。歩いていれば、予想もしていなかった人たち、普段は話さないような人たちとのさまざまな会話が生まれ、活気も育まれます。そして、そういったものが「文化」につながっていくのです。

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