8月の「人流5割削減」提案が示唆する大事な教訓 第6波に向けて分析体制をどう構築したらいいか

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5割削減の背景

7~8月のABと分科会の提出資料・議事要項、そして8月12日の尾身会長の記者会見の発言記録を読むと、以下の2つが5割削減の根拠として浮かび上がってくる。

1つ目は過去の繁華街夜間滞留人口と感染の相関に基づく推測である。デルタ株の感染力の強さを考えると少なくとも第3回の緊急事態宣言の時の人流最低値に到達しないと感染は抑制できないのではないかという推測であり、この推測は7月28日・8月11日のABの議事録で登場し、8月12日の記者会見でも尾身会長が言及する。

2つ目はAB資料3-3の見通し(プロジェクション)である。この資料には数多くの分析が提示されているが、重要なのは(1)過去の夜間滞留人口と実効再生産数の関係を基にした実効再生産数プロジェクションと、(2)再生産数を外生的に与えての病床シミュレーションの2つである。(1)(2)のプロジェクションは感染拡大抑制のためには、それぞれ人流・再生産数を大幅に削減する必要性を示唆しているように解釈できる。8月12日の記者会見で尾身会長は、再生産数削減は人流削減と同義ではないことを丁寧に説明しつつも、提案はこれらシミュレーションと「同じ方向を向いている」と述べられている。

こういった数値目標はいくつかのシミュレーションを参考にしたうえで、シミュレーションに考慮されていない要素等も加味し、総合判断で設定されることが多い。8月前半のAB議事概要では、ロックダウンの必要性の検討を求める声もあり、医療逼迫の度合いによっては100万人を超える死亡者が出る可能性も指摘された。

8月12日の記者会見で尾身会長は、人流削減目標は第3回緊急事態宣言の最低値だが、第1回緊急事態宣言レベルの危機感を持つ必要性を訴えている。それと同時に、提言では、リスクの高い場面での人流削減を強調し、また具体的にリスクがそれほど高くない場面を明記するなどもして、国民の自粛疲れに配慮している。

実現性・国民の納得感等の、数字では捉えられない要素を加味したうえでの5割削減目標であったことが読み取れる。

AI-Simチームの分析

上記2つのAB分析だけでなく8月上旬の段階ではAI-Simチームの分析の多くも、人流をある程度追加的に削減しないと8月後半の感染減少が困難であることを示唆していた。8月3日・10日の定例ミーティングで発表された資料を眺めると、半分以上は追加的な行動制限なしの場合には感染減少が始まるのは9月以降としており、またその感染減少ペースも緩慢だと予測している。

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