8月の「人流5割削減」提案が示唆する大事な教訓 第6波に向けて分析体制をどう構築したらいいか

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ちなみに、1つのモデルには限界があることを認識し、できるだけ多くのモデルを参考資料とするべきとする態度は、中央銀行の世界では定着している。筆者が昨年3月まで在籍していたFRBでは、それぞれのチーム(例:消費・インフレ・投資・政策金利・資産価格・貿易・戦略分析)がいくつかのモデルを運用しながら分析を行っている。

筆者が所属していたマクロモデルチームでは、FRB/US・EDOという2つのモデルを主軸に置きつつも、ほかにもいくつかのモデルを運用し、政策分析の目的によって使い分けていた。学問の世界では1つのモデルや理論を深く追究することが評価されやすいが、現実世界に直接的な影響を与える政策分析の世界では、1つのモデルに固執せずに多様なモデルを参考にすることが望ましい。

尾身会長は9月1日にインスタグラムで「コロナ対策は『科学だけでは決められないこと』がたくさんあります」と述べられたが、私はその発言に以下の2つの意味で共感する。

1つは、科学の力ではリスクの度合い・政策の効果を正確に定量化できないことが多いという意味である。コロナ感染に関してはわからないことがたくさんある。それを解明するために十分なデータが存在しない場合も多い。例えば、現時点の科学の力では、時短要請をすることで具体的に感染がどのくらい抑えられるのかを正確に推定することは困難である。

考え方や立場によって何が最適かは違う

もう1つは、最適なコロナ対策というものは感染リスクと行動制限等による社会経済への負の影響をどのように評価するかという価値判断にも依存するという意味である。もし仮に、時短要請が感染に与える影響と、社会経済に与える影響が科学の力で正確に評価できたとしても、考え方や立場によって何が最適かは違ってくる。コロナ禍でも収入が安定している人々と、飲食店を経営されている人々では「何が最適か」に対する答えは違うであろう。社会全体としてどこを目指したいかを決めるのは国民でありその声を聴く政治家である。

コロナ禍における専門家の役割は、何が最適かを決定することではなく、国民・政府に感染リスクと行動制限による生活へのリスクを定量的に説明することであると考える。そして、科学の力では正確に定量化できないことが多い中で専門家ができることは、現実的な仮定に基づいた見通し・多様な視点からの分析を参考にしながらリスクの定量的評価に努め、その評価について根拠を示しつつ、不確実性の度合いとともに国民にわかりやすく説明することである。非常に大変な作業だが、そういった作業に専門家が集中することがより多くの人々にとって納得のいくコロナ政策につながると考える。

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分科会の専門家の方々は2年近くもの間休むことなく、よりよいコロナ政策のために分析・発信を続けてこられた。そのたゆまぬ努力に感謝と敬意を表したい。そして、上記のささやかな提案(他分野専門家とのこれまで以上の積極的な協力)が、分科会が今後これまで以上に説得力のある分析・発信をするための一助となることを願う。

仲田 泰祐 東京大学大学院経済学研究科 准教授

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なかた たいすけ / Taisuke Nakata

米連邦準備理事会(FRB)の主任エコノミストを務めた金融政策とマクロ経済のプロフェッショナル。2020年に日本に活動拠点を移した後、新型コロナの感染と経済影響に関する試算で注目を集める。1980年生まれ、2003年シカゴ大学経済学部卒業。カンザスシティ連銀調査部からキャリアを始め、12年にニューヨーク大博士(経済学)。「社会に役立つ分析」を掲げる実践派経済学者の代表選手。

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