8月の「人流5割削減」提案が示唆する大事な教訓 第6波に向けて分析体制をどう構築したらいいか

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AI-Simチームにはさまざまな分野の研究者が参加している。それぞれのメンバーが違ったモデルを使い、違ったデータを取り入れて分析している。レポートには前提となるさまざまな仮定が丁寧に記述されているが、それぞれのモデルによると、何割の追加人流削減をすれば感染を8月後半に減少にさせることができたのかを正確に知ることは難しい。チームによって使っている人流データが違うこと、人流データ以外の変数も使って「今後の行動制限の度合い」を調整しているチームもあることが、そういった正確な定量的評価を困難にする。

しかしながら、参画チームメンバーのレポートとモデルを一通り眺めて、メンバーと個別に意見交換をした後での、私の評価は「8月前半の分析の多くは5割削減という数値目標を正当化しうる」というものだ。

「さらなる人流抑制なしでも」感染は8月後半には減少に向かう可能性を8月前半に提示していた分析もあったということは指摘しておきたい。1つは名古屋工業大学平田晃正教授の機械学習モデルに基づく予測、もう1つは藤井仲田チームの「自主的な行動変容による感染拡大抑制シナリオ」である。また、8月後半には、多くのチームが「さらなる人流抑制なしでも」9月以降の急速な感染減少を予見していたことも強調しておきたい。

ワクチン接種を考慮することの重要性

こうやって7月後半~8月に提示されていたシミュレーションを1つひとつ振り返ってみると、1つの事実が際立つ。それは上記したABプロジェクションには「今後ワクチン接種が進んでいくことによる感染抑制効果」が考慮されていないという事実である。この事実は資料から読み取れるが、11月8日にAB3-3 資料提供者である西浦博京都大学教授にもメールで直接確認していただいている。

感染の今後の見通しを立てる際に重要な要素は多々あるが、その1つはワクチン接種である。われわれはイギリスの疫学チーム(SPI-M-O)によるレポートを参考にしてモデルのパラメーターを設定しているが、もちろん彼らはワクチン接種の感染率・重症化率・致死率への影響等を考慮して見通しを作成している。AI-Sim各チームもすべてワクチンの感染抑制効果を考慮して今後の見通しを作成している。

7~8月の東京のように、現役世代に毎日大量にワクチン接種を打っておりそれが継続すると見込まれる局面では、ワクチン接種を考慮するか否かは今後の見通しに大きな影響を与えると思われる。しかしながら、ABの実効再生産数プロジェクションがワクチンの感染拡大抑制効果を考慮し始めるのは感染減少が本格化した後の9月1日からである。6月30日から9月16日までに提示されていた病床プロジェクションでは再生産数は外生的でありワクチン接種に影響されない。

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