華麗なる交易 貿易は世界をどう変えたか ウィリアム・バーンスタイン著/鬼澤忍訳 ~力強い構成、卓抜な事象で本好きをうならせる
人間には物を取り換える性向があるとアダム・スミスは述べている。もちろん、性向だけではない。本書は、富と野望に取りつかれた人類が、いかにして貿易を拡大し、それによって世界を変えていったかの物語である。
人類が生まれてからすぐに、石器に向いた石を何かと交換したことはわかっているが、近年になるまで、遠隔地との間で交換されるものは、貴金属、コショウ、絹など贅沢品ばかりだった。輸送コストが、物理的にも政治的にもあまりにも高かったからだ。暮らしなれた村を出れば、そこは盗賊の住処で、遠くまで交換に行くことは命がけの仕事だった。しかし、だからこそ交易はリスク以上の利益をもたらしたのだろう。
ただし、いくつかの帝国が政治的コストを低下させ、交易を発展させた。イスラム帝国の繁栄も、ヨーロッパと中国の間の交易を支配していたことによる。イスラムは商人の宗教であり、交易を促進する要素を持っていた。しかし、イスラム帝国は、次第にヨーロッパの競争者に敗北していく。大航海時代のヨーロッパ人の強引さと乱暴さには驚くばかりだ。
物理的なコストも地道な技術革新が低下させた。ラクダが輸送技術の革新であるという分析には、思わずうなってしまった。
貿易の利益は徐々に広がり、認識されていくが、反自由貿易主義、反グローバリズムの思想も現れてくる。その主張が今日とほとんど変わらないことに驚く。アメリカ独立戦争の端緒となったボストン茶会事件の真相も、反自由貿易主義からのものだったという。