華麗なる交易 貿易は世界をどう変えたか ウィリアム・バーンスタイン著/鬼澤忍訳 ~力強い構成、卓抜な事象で本好きをうならせる
自由貿易の利点は国富論の75年も前の論文に明晰に述べられていたというが、本当に自由貿易主義が勝利するのは国富論の出版後、実業家であるコブデンとブライトの活躍による。理論だけでは自由貿易主義は勝利することができず、政治運動を組織する手腕と、自らが設立した郵便による通信手段の低廉化という技術革新が勝利をもたらした、という分析は興味深い。
自由貿易は多くの人に利益を与えるが、すべての人にではない。であるなら、損害を被る人を「買収」しようという考えも生まれ、本書も貿易の利益の享受者と損害者をめぐる政治的分析の後にそのアイデアを紹介している。しかし、民主党の農家戸別所得補償にもその考えが含まれていることが理解されない現状では、この議論が認知を得るのは難しそうだ。
力強い構成、一貫した思想、卓抜で意外なエピソードの選択と、本好きをうならせる要素がしっかりと詰まっている。
William J.Bernstein
投資理論家、歴史研究家。個人投資家向けに投資情報サイトefficientfrontier.comを運営。モーニングスターのコラムニスト兼アナリストとしても活躍、ウォールストリート・ジャーナルなどにもたびたび登場している。米オレゴン州在住。
日本経済新聞出版社 3780円 523ページ
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