テレビ局が「40代向け番組作り」に躍起になるワケ 最重要指標は「世帯」ではなく、「コア視聴率」

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(図版:国立社会保障・人口問題研究所公式サイトより筆者作成)

そして2030年、コア視聴率の対象は、人数も少なくなるうえにさほどテレビを見ない人びとになる。テレビと社会の関係が大きく変わりそうだ。いまよりずっと、影響力の小さなメディアになるだろう。人気番組も、見てる人は見ているが、ほとんどの人は見ていないものになる。

ではテレビはこれからひたすらダメになっていくのだろうか。そうとも限らないと筆者は考えている。これまでのように不特定多数を狙うのではなく、誰に見せたい番組かをはっきりさせることで、そのターゲットにCMを見せたいスポンサーがつく。セグメントマスという言葉を使う企業が増えている。セグメントされたターゲットの中でやっぱりマスなメディアとしてテレビの価値は十分にある。

80年代フジテレビの延長線から抜け出せるか

では例えば20代に絞ったコント番組をつくればいいのだろうか。そうではないと思う。

そもそもいまの「テレビ文化」は80年代のフジテレビが開拓したものだ。「楽しくなければテレビじゃない」をスローガンに、自由奔放な番組作りを始めた。「ひょうきん族」に代表されるはちゃめちゃな笑いや、若い世代の流行を取り込んで恋愛を描くトレンディードラマで新しいテレビを作ったのはフジテレビであり、先陣を切ったのが団塊世代だ。それに続いて、団塊の下の世代が各局でフジテレビに続けと90年代以降努力してきた。

NHKが正月に毎年「新春テレビ放談」という番組を放送し、局の垣根を超えてテレビの作り手たちが語る。2010年代半ばには「フジテレビどうした」が毎回話題になった。ある回では「他局の上層部が“フジテレビが元気じゃないとテレビ全体が元気をなくす”と言った」という話が出てきた。それくらい、フジテレビは全局の目標だったのだ。

若い男性はお笑いが好き。若い女性は恋愛ドラマが好き。いまのテレビ局でもそう考える人は多いと思う。実際、コア視聴率が基準になってそういう番組がまた増えた。だがそれは、80年代フジテレビが作った潮流だ。いまの若い人がみんなそうなのかは、検証が必要ではないか。一時期もてはやされた第7世代より第6世代を重宝しはじめたのは、フジテレビ文化を40代の視聴者がまだ保っているからで、同じ発想ではいまの若者に通用しないと筆者は考える。

団塊の世代はあらゆる分野で新しい文化を開拓し、その後の世代に強い影響力を与えてきた。すぐ下の世代から団塊ジュニアまでは共通の文化で生きてきた。そこには功罪両面があるが、いろんな意味で団塊世代文化から抜け出さないと、若い世代に見放されるのではないだろうか。団塊世代はなにしろ人数が多く押し出しが強い人びとなので影響力を保ってきた。フジテレビはその象徴的存在だったし、ほかの分野の文化も貪欲に取り込んできた。

だがもう「楽しくなければ」は通用しない。そこから脱却しなくてはならない。その言葉を口にする人はもういないと思うが、その精神は今も各テレビ局に残っていると思う。すぐにコント番組や恋愛ドラマに走るのがその最たる例だ。そうではなく、いまの若い世代にどんな番組が気に入ってもらえるかを真剣に一から考え直す必要がある。

いちばん有効なやり方は、若い世代に番組づくりを託すことだ。80年代のフジテレビはまさにそうだった。長らく社内制作をしないでやってきていたところに、トップが代わり若い作り手が呼び寄せられたら一気にエネルギーを爆発させた。最初からすごかったのではなく、任せたらすごくなったのだ。その世代とそれに続いた世代が今も頑張りすぎているのが、あの局の最大の問題だ。

当時と同じことを、いまテレビはやるべきだ。上の世代は若者にぽんと任せて口出しせず、責任だけ取ればいい。

上の世代が若者たちに場所を明け渡せるかどうか。テレビの進化はそこにかかっている。そしてこれは、どの業界や会社ついても言えることかもしれない。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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