戦後最悪の日韓関係となった大統領の軌跡 「当為性」を重視する姿勢 日本の重要性の低下も一因

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──慰安婦や元徴用工など歴史問題については、日本からすると文大統領がきちんと向き合わず放置してきたという印象があります。

例えば2015年の慰安婦問題での日韓合意を事実上白紙化したり、徴用工問題を「司法の判断を尊重する」として事実上放置したりしたのは、韓国にとって日本がもはや「圧倒的重要性」を有していないためです。「植民地支配=違法」という当為性が強調されます。

韓国社会は、日本の嫌韓にも無頓着なように思います。いわゆる日本の「右傾化」の延長線上や、復古的な「朝鮮人差別」意識といった側面だけで捉えるのは適切ではありません。なぜ日本で嫌韓が起きているのかを探究すべきなのです。

日韓両国の協力と実績を過小評価している

また、国交正常化以降の日韓両国の協力と実績に対して、大統領もその参謀、政治家も、そして主要メディアも過小評価していることが気になります。

──嫌韓と同時に、K-POPや韓流ドラマを楽しむ日本人が増えていますが、高い好感度が日韓関係には必ずしもよい影響を与えていませんね。

文化を文化として楽しむのは当然で、政治外交と別個に考えるのが自然でしょう。一方で政治外交関係の悪化は、文化・人的交流にも悪影響を及ぼします。例えば2012年までのほぼ毎年、日本の中高生の修学旅行先は韓国がトップで、全体の2割超を占めていました。ところが12年8月の李明博(イミョンバク)大統領の竹島上陸を契機に13年以降下がり始め、コロナ禍前の19年はわずか1.2%に落ち込みました。

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日本も韓国パッシングをするのは得策ではありません。日韓関係の根幹を揺るがすことがないよう韓国政府へ対応を求めるべきです。また、さらに深刻化しそうな米中対立を念頭に、韓国との連携のあり方を考える必要を感じます。岸田文雄首相は「北朝鮮と対峙する際、韓国の協力を抜きに日本の単独行動はありえない」と発言していますが、これはそのとおりだと思います。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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