──文大統領は現実にどう対処するかというよりも、「かくあるべし」という理想論を前面に出すことが多いように見えます。
韓国の国際政治経済学者のロー・ダニエル氏は「韓国人や政府の歴史認識や行動は、当為主義という概念に集約することができる。認識や価値判断において現実(what is)よりも当為(ought to be)に焦点を置くものである」と指摘しています。「こうあるべきだ」が第一で、もともとあるべき理想へのこだわりを重視するという意味です。決めた規則や約束を重視してそのとおりにする機能主義(形式主義)とは違い、この「当為性」がとても強まっているように思えます。
──韓国大統領はこれまで、残り任期1年を切ると一気にレームダック(死に体)化しましたが、文大統領はそうではありませんね。
そうです。世論調査の結果を見ると、任期まで残り半年の時点で40%程度の支持率を維持しています。また、本人や親族などが権力を利用したスキャンダルや不正疑惑も出ていません。さらに、国会の議席の3分の2を与党が占め、その与党をしっかりコントロールしています。
レームダックにならなかった大統領
過去の大統領は経済界と癒着しているのが普通でした。財閥を中心に産業化を進めたことの“ひずみ”の部分です。その意味で、本人は前述した「積弊」に陥らず、ぶれなかったということです。文大統領を熱烈に支持する「親文」といわれるコンクリート支持層を持っています。この存在がこれまでの大統領とは異なります。彼の政策が適切かどうかは別にして、当為性を重視してぶれなかったので、レームダックにならなかったといえます。
──しかし、日本とはギクシャクすることが多く、揚げ句に最悪の日韓関係といわれるまでになってしまいました。
日本の安倍晋三、菅義偉両政権と文政権の「ケミストリーが合わない」、つまり理念(保守と革新)やナショナリズム、手法が異なるから両国関係が悪化したという見立てがあります。これは誤りではありませんが、これだけでは説明がつきません。
それよりも、日韓間で起きている構造的な変化が大きな理由です。例えば、(1)各界の日韓間のパイプが先細りを見せている点、(2)韓国において日本の「圧倒的重要性」が減退している点、(3)韓国社会は道徳志向的なメンタリティーが高まっている一方で、日本は法実証主義的なメンタリティーが主流である点、(4)日本社会において閉塞感や排外意識が進行した点、(5)インターネットの発達や貿易先の多角化などグローバル化が深化している点、などが挙げられます。
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