「M-1で勝つことをやめた47歳芸人」その後の人生 ぴっかり高木といしいはなぜ解散を選んだのか

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高齢農家と買い物弱者をつなぐ「移動詰め放題屋 ふじまーる」を始めた山梨住みます芸人の、いしいそうたろう(右)とぴっかり高木(写真:吉本興業提供)
東京や大阪で成功するだけが人生ではない。それは芸人の世界でも同じだ。都会で売れるという目標を捨て、あえて地方での活躍を目指した「よしもと住みます芸人」たちに密着する本連載。第3回では、山梨で野菜の移動販売を始めたいしいそうたろうに焦点を当てる。芸人として「M-1を目指す生き方」を捨て、「買い物弱者の味方」になる道に進んだ理由とは? 執筆者はルポライターの西岡研介氏。過去記事はこちら

大小様々な10本の吊り橋と5つの滝で知られ、紅葉シーズンにはハイカーで賑わう「大柳川(おおやながわ)渓谷」(山梨県南巨摩郡富士川町十谷地区)。

2020年10月1日午前11時、渓谷近くの駐車場にキッチンカーを止め、“開店”の準備を済ませると、彼は、右手にマイクを持ち、左手でトローリースピーカーを引きながら、山間部に建つ家々の間をゆっくりと歩き始めた。

「十谷(じゅっこく)地区の皆さま、こんにちは。お騒がせしております。山梨住みます芸人の『いしいそうたろう』でございます。月に一度の『詰め放題屋 ふじまーる』、やってまいりました。

本日もおいしいお野菜、焼きたてのパンなどをお持ちいたしました。コーヒー、フランクフルトなどもございます。このあと12時ごろまで、観光駐車場におりますので、ぜひ、お立ち寄りください……」

芸人が「買い物弱者」の味方に

高齢農家から「ハネモノ」と呼ばれる規格外の野菜を譲り受け、また、地元のパン屋からは焼きたてのパン、養鶏業者からは産みたての卵を仕入れ、近くに商店のない山間部などに住むお年寄り、いわゆる“買い物弱者”に「詰め放題」という販売方法で、格安で提供する「移動詰め放題屋 ふじまーる」。

いしいが、この「ふじまーる」で、富士川町内を回り始めてから今年で2年半になる。当初は荷台にコンテナを詰んだ軽トラックでスタートしたが、2020年1月にキッチンカーにリニューアル。買い物に訪れる人たちにコーヒーや軽食も提供できるようになり、毎週木曜日、富士川町の山間部と市街地を回り、高齢者を中心に町民の“憩いの場”になっている。

買い物に来た地元の高齢者の話に耳を傾けるいしい(筆者撮影)

いしいは1974年、東京生まれの東京育ち。大学在学中の1996年、東京NSCに2期生として入った。卒業後はコンビで「銀座7丁目劇場」などに出演。コンビ解散後はいったん吉本を離れ、芝居の世界へ。仲間たちと小劇団を立ち上げ、役者となったが、やはりお笑いがやりたいと2008年、ピン芸人として吉本に戻った。

そのときに出会った、大阪出身の「ぴっかり高木」と即席のコンビを結成し、「M−1グランプリ」に出場。1回戦を突破できたことに気を良くしたぴっかりから誘われ2009年12月、「ぴっかり高木といしいそうたろう」を結成した。が、コンビ結成からわずか1年で、いしいは吉本の「住みますプロジェクト」に応募したという。いしいが10年前を振り返る。

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