コロナで孤立が深まった人のあまりにも深い苦悩 つながりの格差、コミュニケーションの重要使命

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コンタクトレス(非接触)の流れは、社会経済的なメリットが大きい分、デメリットを見逃しがちだ。長期のリモートワークによるうつなどメンタルヘルス不調が話題になり、多くの企業で対策に苦心しているのはその一例である。情緒的な安定を下支えする関係性という面では、オンラインだけでは限界があるのだ。特に緊急事態宣言下において、感染リスクを考慮に入れたうえで、(場所や時間が限定されていたとしても)直接会って雑談などができる他者の存在は、心の健康の指標といえる側面があった。

前出のハーツは、「21世紀の孤独は、伝統的な定義よりもはるかに広い意味を持つ」(前掲書)と言ったが、これは、その人にとってのコミュニケーション環境が「尊厳」(dignity)を得られるものになっているかの実質を問うものであり、家族や友達の有無といったものに還元できない個体差、変数の多さから来る複雑さを示している。

「私の定義では、孤独とは、愛や仲間や親密な人間関係が欠如した状態に限らない。また、日常的に交流する人(パートナー、家族、友達、近隣住民)に無視されているとか、相手の目に入っていないとか、大切にされていないという感覚だけでもない。(略)他人だけでなく自分自身からも切り離されている感覚や、政治的・経済的に排除されている感覚も含まれる」(同上)……

孤独や孤立の問題は可視化しづらい

フェイスブックで友人が1000人いても、パートナーと子どもがいても死ぬほど孤独な人がいる一方で、少数の知り合いや友人たちと趣味や地域活動に打ち込む幸福度の高いおひとりさまがいる。あえて極端な対比を用いたが、表面上は何も問題がないように見えるほど、孤独や孤立の問題は可視化しづらくなってきている。コロナ禍によってこの「つながりの格差」はより深刻の度合いを増しており、仮に収束したとしても自粛期間がもたらしたダメージは、社会全体に悪影響を及ぼし禍根を残すかもしれない。

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わたしたちは意識するしないにかかわらず、コロナ禍というストレス・テストによって、自らの尊厳がどのような関係性に依存しているのかを一瞥した。コミュニケーションはささいな行為の連なりにすぎないが、これまで以上に重要な使命を帯び始めており、その効用がセンシティブに焦点化される時代になっているのだ。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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