燃え殻氏が振り返る「1995年と今」の決定的な違い 「ボクたちはみんな大人になれなかった」の真意

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今では週刊誌でエッセイを連載していて、つねに「どうしよう、何を書こうか」という悩みはありつつも、「やるしかない」という気でいます。「不安」はずっとあったけど、悩んでいる内容が変わってきた。その変化を認識できれば人間は何とかやっていけます。

例えば、あのときはあの仕事であの人間関係に悩んだ。でも今は、この仕事のこのやり方で悩んでいる、と。そのことに気が付くとずっと生きやすくなるんです。悩んでばかりいるとノイローゼになりそうになるのですが、悩んでいる内容が変わればずっと悩んでいてもいいんだと。

「悩んでいる→つらい→死ぬ」ではなくて、その内容が1年ごとに変わればいい。自分自身も物を書き始めてから、書く内容についての悩みは変化しています。つねに悩んでいても、その内容が変わっていることを自覚すると「まだ大丈夫だ、自分はやれる」と思えるんです。

過去はこれから変えられる

――この映画を観ると、過去の自分が今の自分を作っていることがわかります。燃え殻さんの「今」を作っている過去がこの映画に映し出されていたでしょうか。

映し出されていましたね。どの場面を見ていても、自分が言葉にできなかった気持ちが映し出されていた気がします。「自分が小説で書くべきだったかもしれない」と思うものが映画では描かれていました。

ちなみに、劇中の「君は大丈夫だよ、おもしろいもん」という一言は本当に彼女から言われた言葉です。

今振り返ると、あの言葉に自分がどれだけ救われたかわかりません。と同時に、「あの子が面白いって言ってくれたんだから、オレ面白くなんなきゃな」という呪いも重なって、死ねなくなってしまいました。

彼女からかけられた呪いによって自分と結んだ約束を達成するまで、できることを全部やらざるをえなかったのではないかと。

映画で「君は大丈夫だよ、おもしろいもん」という言葉を聞いたときに「みんなそうなんじゃない?」って言われた気がしました。なので、当時の彼女がこの映画を見て「おもしろい」って思ってくれたらいいなと思います。

燃え殻(もえがら)/1973年生まれ、神奈川県出身。小説家、エッセイスト、テレビ美術制作会社企画。WEBで配信されたデビュー作「ボクたちはみんな大人になれなかった」は連載中から話題となり、2017年に書籍として刊行される。エッセイストとしても活動し著書に『すべて忘れてしまうから』『夢に迷って、タクシーを呼んだ』『相談の森』など。2021年、2作目の小説『これはただの夏』を刊行 ©燃え殻

――燃え殻さんは業務連絡が目的でTwitterを始め、それがきっかけで作家になったと伺っています。つぶやき始める前から「書きたい」と思っていたのでしょうか。

それはまったくわからないですね。「書きたいとは思っていない」とずっと思っていましたが、もしかしたら「書きたい」と思っていたのかもしれないです。

それは過去を書き変えていることになるのかもしれません。でも、それは今、物を書く仕事をしていることに対して前向きになれていることの証しなのではないかと。

そう考えると「過去は変えられる」と思うんです。未来は手も足も出ない真っ暗闇みたいなもの。なので、今はどんなに苦しくても全力で目の前のことだけをやるしかありません。そういう意味で、もがいている今は本当につらいですよね。

でも、将来になって今を振り返ったときに「あの頃があるから今がある。だからあの頃は悪くなかった」と思えればいいのではないでしょうか。そうやって、どんどん過去を改ざんしていけばいい。その繰り返しで人は生きていけるような気がします。

熊野 雅恵 ライター、行政書士

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くまの まさえ / Masae Kumano

ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員、阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍の企画・製作にも関わる。

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