燃え殻氏が振り返る「1995年と今」の決定的な違い 「ボクたちはみんな大人になれなかった」の真意
――この映画は主人公の佐藤が仕事においても成長する様子が描かれていますが、1995年当時と現在の就業観の差は感じていますか。
「転職するなら30までに」と言われていました。終身雇用が前提の就職だったと思います。僕はバイトから正社員になったのですが、その頃は本当にグダグダで「自分の人生は終わった」と思っていました。
ところが、今は転職が当たり前で、多少キャリアにブランクがあっても誰も気にしないようになりました。
僕自身、大学受験に失敗して、大学には行かなかったのですが、母親は「どうして普通のことができないの」といつも言っていました。アルバイトで食いつないでいた頃は「ちゃんとしてくれ」と泣いていました。母親は「普通が尊い」という人です。「本当に親不孝だな」と思いながら普通にできない日々を送っていました。
あの頃は、とりあえずは大学へ行って、法事に行って親戚の前で名前を言っても恥ずかしくない、できるだけつぶれない会社に就職して、結婚して、子どもを作って、家を買う。それが「いい人生」だとされていました。
価値観が大きく変わった
――確かに、今、40代半ばの両親の世代は、進学→就職→結婚→子作り→持ち家というステップを踏むことが大人になることだという「昭和の価値観」をまっとうして成功した世代でしたね。
1990年半ばに若者だったボクたちの世代は、生き方においてつねに「正しいか」「間違っているか」の二者択一を突きつけられていたのではないでしょうか。
そして、僕はその昭和の幸せの価値観の「進学・就職・結婚……」というステップのすべてを人よりも後回しに達成することになったので、「あなたは間違っている」と言われていました。
ところが、状況は一変。今でも確かにそういう価値観は存在しますが、長引く不況でそういう典型的な幸せな人生を送ってきた人が、ある日突然会社の倒産により、苦境に追い込まれてしまう。また、近年では「会社が老後まで面倒をみてくれる」という前提も崩れつつあります。
そういう中で従来の幸せのロールモデルが「本当に幸せなことなのか」と疑う風潮が出てきたとは思います。
なので、今の若い世代には「多様な価値観を共有する」という感覚が当たり前にあります。それがとても羨ましいですね。当時、今の風潮で僕が同じことをしていても、母が大号泣することはなかったかもしれません。
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