燃え殻氏が振り返る「1995年と今」の決定的な違い 「ボクたちはみんな大人になれなかった」の真意

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11月5日からシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかで劇場公開予定で、同時にNetflixで全世界配信される『ボクたちはみんな大人になれなかった』。1995年当時の交際相手や現在に至るまでの日常をつづった燃え殻氏の半自伝的小説が原作だ ©2021 C&I entertainment
流行していた映画や音楽を織り交ぜながら1995年当時の交際相手や現在に至るまでの日常をつづった燃え殻さんの半自伝的小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』。Web連載中から主人公と同世代の40代の読者はもちろん、さまざまな世代の共感を呼び、2017年に書籍として出版された後はたちまちベストセラーになった。そして、映画化が決まり、11月5日からシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかで劇場公開予定で、同時にNetflixで全世界配信される。
初めての恋人・かおりとの物語が始まるのはインターネットや携帯電話が普及する前の1995年。主人公の佐藤(森山未來)とかおり(伊藤沙莉)はアルバイト雑誌の文通募集欄を通じて知り合う。好きな音楽の話で意気投合したふたりは、恋人同士になり、小沢健二、ラフォーレ原宿、WAVE、タワーレコード、シネマライズなど90年代のカルチャーを語りながら、渋谷のラブホテルで時を過ごすようになる。
そして時は流れて2020年。コロナ禍の新宿の街を歩く佐藤は、当時のアルバイト仲間の七瀬(篠原篤)に誰もいない新宿で偶然出会う。あの頃、「キミは大丈夫だよ、おもしろいもん」と言ってくれたかおりに思いをはせる佐藤はかつての記憶をたどりだす――。
今回は原作の著者である燃え殻さんに1995年から現在に至るまでの恋愛や仕事における価値観の変化や映画に寄せる思いについて話を聞いた。

「みんなの富士山」がなくなった2020年代

――1995年から現在までの時代の変化が克明に描かれていますが、改めて振り返ってみてどのようなことを感じましたか。

2020年の新宿から物語が始まりますが、誰もいませんよね。七瀬を演じた篠原さんが、「あんなに人がいない新宿で森山未來さんと撮影できたことは一生の思い出です」と言っていました。緊急事態宣言下で撮影したそうですが、どこまでも人がいなかったですね。

行き先を目指してたくさんの人が歩いていた1995年と誰もいない新宿。これが一番の変化だったのではないでしょうか。小説はコロナを描いていませんが映画は描いています。街の風景は一変してしまった。これが1995年と今との一番の変化ではないでしょうか。

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――映画には当時大人気だった映画のウォン・カーウァイ監督の『天使の涙』(1996年)やファッションブランドの「NICE CLAUP」が映っていました。今は映画もファッションもそれぞれが好きなものを追い求め、好みが細分化し、「流行」がなくなってしまったように感じます。

それは音楽も同じですよね。僕らの時代にはみんなが憧れて聴いている「富士山」みたいな人気アーティストがいました。「あれが富士山だよ。高いねぇ」と。ところが、今は心の中にそれぞれの富士山があります。

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