「野球の基本はキャッチボールですが、相手が受ける準備ができていないのにボールを投げるとケガをします。これでわかるように、スポーツは助け合わなければ成立しません。常々選手に言うのは“野球がいくらうまくても、野球をやるのはたかだか10年くらい。それより野球以外の人生のほうが長いのだから、その部分を大切にできる人間になろうよ”ということです。
女子の場合、昔は高校を出たら野球をする場所は多くありませんでしたが、今は女子野球の選択肢もすごく増えました。野球がしたくてもできなかった私の時代から考えると、ずいぶん変わったな、と感慨を覚えます」
2017年4月、橘田恵率いる履正社高校女子野球部は、春の選抜大会で全国優勝した。その月末に全日本女子野球連盟の長谷川一雄会長から電話があった。
「“全日本の監督をしてくれないか”といきなり電話をいただきました。まったく予期してなかったので、とにかく驚きました。日本代表選手としての経験もない私には難しいのではと感じました」
女子野球の日本代表が置かれている状況
連盟が橘田を監督に選んだのは、過去3回の女子ワールドカップに大会役員として参加し、プロ、アマの選手をよく知っていたうえに、自身も海外で豊富なプレー経験があったことが大きい。もちろん、チームを短期間に強くした手腕も評価された。
女子野球の日本代表は、男子の野球や他競技の日本代表と少し違う状況にある。2年に1度行われるWBSC女子ワールドカップでは、日本代表は2008年の第3回大会以降、6連覇を果たしている。
筆者はこの2008年の大会の決勝戦を愛媛県松山市で観戦したが、出場国の中には、試合前のシートノックでもボールをぽろぽろこぼすようなレベルのチームがあった。端的に言えば、日本はこの時期から圧倒的な強者であり、単に優勝するというよりは、いかに勝つか、そして選手にどんな経験をさせるかが課題になっていた。橘田は選手の人選にも工夫をした。
「当時のプロ選手を6人選びましたが、アマでは経験値が少ない若い選手も選抜しました。どうバランスを取るか、コミュニケーションを駆使して、どんなチームを作っていくか、この先の女子野球のさらなる普及・発展を重視したんです」
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