拾った「火中の栗」、3年で再生できたワケ SOLIZE・古河建規社長に聞く(後編)

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三宅:なんと。昔からそんなに楽観的な性格だったのですか?

古河:自分では、楽観的ではないと思っています。そうなると思っているのです。

私の好きな言葉で、「一切唯心造(いっさいゆいしんぞう)」というのがあります。自分の周りに起きる一切すべてのことは、唯一、自分の心が作り出したものであるという意味です。

三宅:「思ったことが起こるのだ、だからいいことを思うべし」というわけですね。いい言葉ですね。

古河建規●ふるかわ・たつのり SOLIZE(ソライズ、旧社名インクス)代表取締役社長
1969年東京生まれ。 慶應義塾大学卒。外資系コンサルティング会社を経て2000年にインクス入社。45日の工程を45時間に短縮した金型工場を立ち上げ、2005年に第1回ものづくり 日本大賞・経済産業大臣賞を受賞。2009年よりインクス社長。3年での再生終了後、2013年よりSOLIZE社長。

古河:1900年に生まれて2000年に亡くなった母方の祖父は、三重のお寺の息子でしたが、同じようなことを話していました。「すべては仮の器」だと。だから、目の前のことに惑わされることなく、自分の人間性を高めることが大事だと教えられました。そんなわけで、会社の再生は終えないといけないし、絶対に終わると、毎日、思っていました。

三宅:強く思っていたわけですね。

古河:もっと言うと、人はみな、すばらしい人に出会える才能があると思っています。それに気づいて、チームワークを大事にして、最大限の力が発揮できるかが重要だと思います。再生についても、いい社員が残っていたので、このメンバーできちんとやればうまくいくと考えていました。

それに、本当にいいお客様に恵まれているのです。ある社長さんからは、「あなたの会社が、うちの製品開発の唯一のパートナーなんだ。新製品は2~3年後に出るんだから、ちゃんと存続してくれよ。だから早く再建してほしい。取引は継続するから」と激励されました。実際、取引の99%は民事再生後も継続していただけました。

三宅:とても信頼されているのですね。

古河:多くのお客様が、取引を継続するばかりか、逆に増やしてくれました。新規のお客様も、新しい口座を作ってくれました。そんなことがあるのかと思うぐらいありがたいことでした。われわれは民事再生中だったので一から信頼を作っていくしかありません。一度でもいい加減なことをしたらダメだと思い、身の丈に合ったことをきちっとやっていくことを徹底しました。今でも信頼を得ることを最も大切にしています。

IT化で人を減らすのが目的ではない

三宅:それでちょうど3年で再生計画を無事終了させたのですね。そして社名も昨年の春からSOLIZEに変更されたわけですが、会社の借金は今どのくらいなのですか?

古河:借金はゼロになりました。無借金の体質を喜ぶわけではありませんが、われわれとしてはすべてお返しするのがひとつの区切りでしたので、うれしく思っています。

三宅:よくそこまで戻しましたね。どうやって実現したのでしょうか?

古河:前回もお話ししましたが、まず基本的な思想を全部変えました。以前のインクスという社名はインター・コンピューター・システムの略で、もともと製品開発工程での職人の技を可視化して、IT化、自動化、機械化を図り、人を減らしていくことを理想としていました。でも、そこが本質的に間違っていたと思ったのです。

三宅:と言いますと?

古河:開発工程においては、人が非常に大切です。人が価値を作り出す。CAD、解析、3Dプリンタなどの技術はあくまで人を支えるもの。そういう考え方に切り替えました。職人の技を可視化する部分は、これまでの経験があります。その強みを新たに「人を中心とした価値創造」の思想の中で生かしました。

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